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世界はこう変わる

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2016年8月 1日

中国は南シナ海問題で追い込まれているのか

(これは27日に発売したメルマガ「文明の万華鏡」第51号の一部からです)

ハーグの仲裁裁判所で中国が「負けた」(正確に言えば、中国がスプラトリー諸島等領有の根拠として挙げている「九段線」は、国際法上意味のあるものではないということ。裁判所は、島あるいは岩がフィリピンに属することを認めたわけではない)ことで、日本の新聞は大喜びしているが、後で臍をかむことになるのでないか? 明治以来、「国際法」に対する日本人の思い入れは強すぎる。誰も判決を執行してくれない「法」に、どれほどの有難味があるというのだろう? 

もともと近代の「国際法」は、オランダがポルトガルの船に対して公海での航行の自由を主張、それによってモルッカ諸島での香料貿易利権に割り込もうとしたことに、その源を有する。オランダは海軍力でその主張を通したのであり、別に自分が考え出した「公海での航行の自由」というスローガンが正しかったから、航行できるようになったわけではない。

今回の仲裁裁判所の判決にはモラル的な意味しかないので、中国が無視して居座っていれば、誰もどうすることもできない。そして中国を仲裁裁判所に訴えたフィリピンは、判決後の腰が据わっていない。判決直前に就任したドゥテルテ新大統領は、中国と個別に交渉すると言ってみたり、打ち消して見たり、中国と米国(日本も)双方からかけられる圧力の間で去就に窮している。

中国が、周辺諸国の反感を買ってまで、こうまで強情な理由は、軍事的なものだと思われている。米国を攻撃できる長距離核ミサイルを装備した原子力潜水艦を常時潜ませておける海域は、今の中国にとって当面、この南シナ海東半分しかない。東シナ海の沿岸部は浅くて潜水艦は底につっかかる。東シナ海の東部は十分深いが、日本領の南西諸島がすぐ横にあり、自衛隊、米軍に簡単に探知され、有事にはすぐ撃沈されてしまうだろう。

南シナ海も西半分は浅海だが、東半分は十分深い。米国の攻撃潜水艦が入ってくると危ないが、東シナ海よりはましだ。しかも、中国原潜の基地がある海南島がすぐ北にあり、中国の原潜はここから直接南シナ海にもぐりこむことができる。

フィリピンと中国が争うスカボロー礁は、フィリピンと台湾の間のバシー海峡の出口に近い。この海峡は太平洋と南シナ海を結ぶ重要なルートで、中国がスカボロー礁を埋め立てて海軍、空軍を配備すると、バシー海峡を通って南シナ海に入る米国の攻撃潜水艦を索敵、牽制しやすくなる。そうなると、米軍は南シナ海で不利になる。それだけではない。極東、あるいはハワイとインド洋、中近東方面との連絡路は南シナ海を避けたロンボク海峡経由となり、機動力を阻害されることになるだろう。但し、南シナ海の岩礁を埋め立てて作った基地、その陸上に置かれた機材、設備は、有事の攻撃にはひとたまりもない。中国が南シナ海の制海権、制空権を握るまでにはなるまい。

中国が他人のものに手を出した時は、早めにその手をぴしゃりとたたいておくか、大声で「どろぼう!」と呼ばわることが必要だ。早めに手をたたいておくと、中国は引き下がるが、さもないと5000年前から自分のものだったと平気で言い始めるのである。

なお、仲裁裁判所が、スプラトリーは岩礁であるとの判断を示したことで、中国を揶揄する日本の報道も見られるが、これは自分の足元を見ていない議論である。と言うのは、日本の最南端、沖ノ鳥島もこれに酷似した物理的状況にあるからである。中国はかねて、この島を日本領と認めてはいるが、居住可能の島ではなく岩に過ぎないので、この周辺に特別経済水域を認めることはできないとしている。日本が島周辺で中国漁船を拿捕でもすれば(既に今年4月には台湾の漁船が日本の海上保安庁に拿捕されている)、日本を仲裁裁判所に訴え、勝訴しようとするだろう。
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