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世界はこう変わる

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2016年6月26日

米国でのロシア主敵論の台頭は日ロ関係に水をさすか

「ロシア主敵」論の意味合い
(これは、6月22日に「まぐまぐ」社から発行したメルマガ「文明の万華鏡」第50号からの抜粋です)

NATOは7月8日、ワルシャワで首脳会議を開く(最近では2年に1度のペース)。今回の焦点は、「ウクライナで明らかになったロシアの脅威」に対して、加盟国のバルト三国、ポーランドなどをどう守るかという問題になる。NATOは既にバルト三国の防空体制強化のために戦闘機を送っているし、Breedlove前NATO軍司令官はForeign Affairsの今月号で、東欧の有事に2,3個の装甲旅団を最低でも2ヵ月間展開できる兵力と装備を準備しておくべきだと書いている。

そしてNATO首脳会議を前にした6月初旬、NATO諸国は隔年のアナコンダ共同演習をポーランドで実施した。これにはこれまでで最大の31000名が24カ国から参加、うち米国からは14000名が参加し、3000もの車両、105もの航空機、12隻の軍艦が動員される大がかりなものとなった。

これらすべての総仕上げであるかのように、前記Breedlove前NATO軍司令官はForeign Affairs誌での論文"NATO's Next Act――How to Handle Russia and Other Threats"で、ロシアはソ連時代のようなグローバルな覇権国の地位を狙っている、ロシアは米国にとってもexistential threatだ、とロシア主敵論を展開したのである。このまま米ロが対決調になっていくと、米国は日本の対ロ関係推進にも当然ブレーキをかけてくるだろう。

以上の動きに対して、ロシアは西側の親露分子を動員し、「このままでは第三次世界大戦になる」式の論調を展開させている。そして西部方面の3ケ旅団を師団に増強(未だ実施されていない)、更にプーチン大統領は5月末のギリシャ訪問の際、米国がルーマニアにミサイル防護装置(ミサイル)を配備することに言及し、ロシアはこれに見合う措置を取ることを示唆した。プーチンは言ったことをわりと実行する男なので、多分欧州諸国までの射程距離を持つ「短距離」ミサイル(実際には、米国との条約自ら放棄した中距離ミサイルとなる)のイスカンデルをロシアの国境付近に配備することになるだろう。

しかし、全体としてこの数カ月のロシアの行いはおとなしい。シリアでは5月4日、作戦の主力だったSu25攻撃機の完全撤退を発表している。もっとも、www.observer.comによれば、5月14日、シリアのHoms州、Tiyas基地(通称T-4)のロシア軍がISISの攻撃を受けたもようで、ISISの攻勢が強まっているのであれば、ロシアは昔のアフガニスタンでのような泥沼にはまらないよう、早期に撤退をはかった可能性もある。またロシアは、東ウクライナでは戦闘を激化させていない。

やはり、原油価格の暴落で昨年GDPが3,7%も収縮、実質賃金も約10%落ちたことで、国民がプーチンを見る目が厳しくなったことがいちばん効いている。「クリミアやシリアでいい格好をするのはもういい。それより自分たちの生活の面倒を見てほしい」ということで、今年になってからプーチンが主宰した会議の多くは経済回復、改革についてのものだ。5月17日には、メドベジェフ大統領時代に遠ざけられていたプーチンの盟友、クドリン元副首相が「大統領経済諮問会議の、構造改革と持続的経済成長に関する作業グループ」の長に任命され、政権に返り咲いた。彼は、経済改革のためには、西側との関係修復が必要、との現実路線を呼びかけている。

ロシアでは、9月には議会選挙があるし、海外での冒険は少し手控えておこうというのだろう。首相にならねばクドリンも改革を実行できないが、メドベジェフ首相を今斬るのも理屈が立たない。彼は不人気の与党「統一」の党首なので、どうせなら9月の議会選で「統一」が失敗するのを待ち、その責任を彼に負わせる形で首相のすげ替えをしよう――こう、プーチンは考えているのかもしれない。

日本にとって、米ロ対決が本格化するかどうかは大きな問題だ。しかし米国がこのまま「ロシア主敵」論にのめり込むとも、どうも思えない。欧州ではロシアの脅威をリアルなものと感じているのはバルト諸国とポーランドくらいのもので、その他の諸国はロシアと無用の対立はしたくない。米国内ではネオコンや人道介入派(スーザン・ライス大統領安全保障問題担当補佐官、サマンサ・パワー国連大使等)はロシアを主敵に仕立てようとしているが、キッシンジャーを筆頭に過度の対立を戒める(その代わり、ウクライナなどは犠牲にしようというのである)向きも根強く発言を続けている。そして、米陸軍・空軍にとっては、欧州方面でロシア軍と対峙することが予算の獲得につながるが、海軍にとってはアジア方面での中国の脅威に対処する方が重要である。

もっともヒラリー・クリントンが大統領になれば、対ロ政策はヌーランド・現国務省次官補、マクフォール前駐ロシア大使といった、ネオコン、リバタリアン系人士によって策定されることとなろうから、少なくとも政権当初は対ロ対決姿勢が前面に出るだろう。">


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