Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2015年12月11日

核廃絶から遠ざかる? 世界

(これは7月28日、広島大学平和科学研究センター主催の国際シンポジウム「恒久的な平和への取組みと市民社会の可能性―核廃絶に向けた70年の軌跡と今後」において行ったスピーチの記録です)


河東でございます。よろしくお願いします。今日の私のテーマは、「核廃絶から遠ざかる世界? ―『大乱』時代の様相―」ということでお話ししたいと思います。どういう話かと言いますと、日本にいると非常に平和であって、テレビのニュースを見ていても、1分ぐらい主要なテーマを見ていれば全部分かってしまうような感じですが、実際には、世界に少し目を向けますと、世界は大乱の状況にあると思います。そういった、世界中がかなり流動的な情勢になっている中で、核廃絶という問題についてもやっていかなければいけないのだと、そういうお話でございます。

核廃絶の現状

では核廃絶、この面で今、どういう状況にあるかということですが、かいつまんで申し上げれば、アメリカの核戦略が相対的に低下しているのではないかと思います。核については幾つかの種類がございますが、米国とロシア、それから中国の間でお互いにミサイル等で送り込むことのできる戦略核弾頭というものがあります。これは、これまでアメリカが最も多数を保有していたのが、最近ロシアが核弾頭を再び増やすことに熱心であるために、今年1月は米国が1642、ロシアが1643ということで、とうとうロシアが抜いてしまいました。

中国は、情報が出てこないので分からないのですが、推定ではだいたい100、大きなものでは900などという推定もございます。しかも、中国のほうはミサイルの多弾頭化を進めているということです。

そういう中で、アメリカはかなり下がってきたように見えるのですが、アメリカの戦略核弾頭のかなりの部分は、原子力潜水艦に積んでありますから、敵国の攻撃を受けても一番大丈夫だという面で、質の面からいけば、アメリカの核武装は相変わらず強いという状況ではあります。
核廃絶についてのもう一つの根本的な要素というのは、アメリカ、その他核大国と一国だけで対決している国にとって、核兵器は絶対必要なものであるということです。核兵器というのは、北朝鮮とかイランとか、そういった国にとっては比較的安価でできるものですので、絶対必要だということが言えます。

ロシアもこの中に入るのです。ロシアは最近、ずっと経済が、ものづくりは駄目ですから、その中でアメリカに対抗する。それから、ロシアは通常戦力の面でアメリカやNATO諸国よりはるかに劣るようになりましたから、その劣った通常兵力をカバーするためにも、戦略核兵器は絶対に必要だという状況であります。

そういった中で、アメリカは質的には大変大きな核戦力を持っておりますが、量的、その他の面によって、かなりその核戦力がほかの国に対して相対的に落ちていました。これによって、アメリカの同盟国にとって、アメリカが差し掛けてくれる「核の傘」、つまり核抑止力の信用性が若干低下してきた面があります。
この一番いい例は、日本です。日本の周辺にいたアメリカの原子力潜水艦その他に、巡航ミサイルが設置されていますが、その巡航ミサイルから核弾頭が、2011年ぐらいでしたか、民主党政権の時代に除去されております。これによって、アメリカが日本に差し掛ける核の傘は、かなり破れ傘になっていると思います。

こういうことになりますと、アメリカはその他の国に対し、核廃絶を迫る迫力が減るわけですね。やはり核廃絶というのは、力を背景にして交渉を働き掛けないと、相手は動かない面がありますので、この面でのアメリカの力が少し減っているということがあります。

つまり、核廃絶だけを取り上げてやっても進まないわけです。核兵器が絶対に必要だと思う国がある限りは、核廃絶は進みませんから、そうしますと、やはり国際紛争要因をできるだけ除去しないといけないのだと思います。

そういう目で、最近の世界情勢を振り返ってみます。現在の世界情勢でどういう紛争があるのか、その紛争はいったいどういう原因で起きているのか、それから、どうやったらそういった国際紛争を減らすことができるのかというお話をしたいと思います。

世界で紛争多発の背景

最初はアラブの春です。エジプトであるとか、リビアのことですね。アラブの春は、たくさんの国で起きて、それぞれ背景が異なるのですが、基本的にはアメリカでおきた2008年のリーマン・ブラザーズの金融危機、それの後を受けて世界経済が全面的に下降し、アラブ諸国でも青年の失業率が急上昇、国内の格差に対して不満が噴出しやすくなった、そういう背景の下に起きたのだと思います。

エジプトの場合には、そういった民衆の不満をアメリカやヨーロッパのNGOがかなりあおって、民主化だということでデモを仕掛けて、政権を倒してしまいました。

シリアの場合には、アサド政権の転覆を狙う湾岸諸国、サウジアラビアであるとか、カタールであるとか、そういった諸国が支援をして、お金も出して、反アサド勢力を盛り立て、不穏な情勢をつくり出したといった面があります。ですから、アラブの春といっても、いろいろな背景を持っているということです。

これはウクライナでの騒動を示すスライドですが、これはアラブの春とはまったく異なる背景を持っております。世界経済が悪くなってきたという基本的な背景は変わらないのですが、その中で、ウクライナはEUの資金が欲しいものですから、EUにすり寄ったらば、ロシアがそれを駄目だと言ったので、それに対してウクライナ内部のリベラルな人たちが騒ぎ出して、EUに近寄りたいんだという集会を始めるようになったわけです。それに対して、アメリカやヨーロッパのNGOが非常に支援をしまして、騒動が大きくなったと。それが下火になったところで、右翼勢力が反政府運動を簒奪して、政権を追い出してしまったということが発端になっております。

次の紛争はISISです。これは本当に日本のような平和な主権国家を前提とした国から見ますと理解できないのですが、どこかの隅で生起した暴力分子が、あたかも一つの国であるかのように特定の領域を支配するようになったわけです。しかし、別にこれは変わったことでもありません。世界史ではこういうことは繰り返されておりますし、中国でも、一部の地方で起きた暴動が次第に広がって、次の国家、王朝をつくり上げてきたわけですから、ISISもその一つにすぎないわけです。

けれども、今回は特定の背景を持っていると思います。シリアで反アサド運動をやっていた人たちは、湾岸諸国からお金をもらっていたのですが、ある時、湾岸諸国がお金をぴたりと止めた時があって、その時に反アサド勢力は分裂したのだと思います。それで、分裂した一つがこのISISになり、自分で資金源をつくろうと思ってどんどん勢力を拡張し始めたと私は推測しております。

それから、まったく性質の異なる紛争ですが、スライド11は中国の南シナ海の紛争です。九点線と言いますが、南シナ海を囲む九つの点を中国が書いて、「この点線の中は古来中国のものであったんだぞよ」と言って、ベトナムの漁船を囲んで体当たりして撃沈してしまうとか、暗礁を埋めて軍事基地をつくるとか、そういうことをやっているわけです。

これ(上のスライド)は、もうご案内のとおり、北朝鮮の核開発問題についてのものです。
これら紛争を分析しますと、背景も当事者もさまざま、まったく異なった性質のプレーヤー、アクターが関与していることがわかります。

一つには、「国家以前のもの」がプレーヤーの一つになっています。テロリスト、ISIS。ウクライナの場合にも、ウクライナはまだ国民国家が成立しているとは言えない状況なので。それから、「後れてやってきた国民国家」。これは、中国とかアジア諸国のように、第2次世界大戦後に初めて近代的な国民国家をつくり上げて、国家意識を高めている諸国がつくり出す紛争ですね。
また、一番典型的な国民国家、主権国家の間の領土・経済紛争。これは今では非常にまれになりましたが。それから、市民運動、マスコミが作り出す通念。こういったものが紛争要因になることもございます。

市民運動は、先ほど申し上げたヨーロッパやアメリカのNGOが民主主義とか自由を一生懸命に広めたいあまりに、現地の情勢をしっかり把握することなしに、かえって騒動を拡大してしまうという問題であります。

マスコミが作り出す通念というものも、中国は悪者だとか、日本は悪者だとか、韓国はけしからんとか、そういった感情を煽ることで、不必要な紛争を作り出すことであります。
いろいろ紛争要因を分析する上で、すぐアメリカが悪いのだという意見が出てきます。アメリカのオバマ政権が悪いんだとか、ブッシュ政権が悪かったんだという単純な議論が出てくる。しかし、われわれが念頭に置いておかなければいけないのは、アメリカは一つではないということだと思います。

特に現在のオバマ政権は、軍事介入を嫌がることで非常に際立っているわけですよね。ところが、アメリカのNGOが海外に出て、民主主義、自由を広めて、それによって海外の騒動を拡大してしまう場合、そのNGOはオバマ大統領に向けて、介入しろと、軍事介入をして民主主義を守れと言い始めます。介入しないと、野党が、大統領は臆病者だということで批判を始める。ここでは、アメリカ国内の与野党の対立が、海外でも展開されるようなことになっているのです。
以上、入り組んでいますが、それが、この2008年以降の情勢だったと思います。今、アメリカの経済が上向きになっておりますから、もしかすると、潮流、トレンドが変わるターニングポイントにあるかもしれないと思います。アメリカはこの8年間、2008年以来、非常に内向きなムードにありました。イラク・アフガニスタンでの失敗、それからリーマン・ショックから回復しなければいけないということがあるので、ものすごく内向きでした。しかし、経済は回復しつつありますし、大統領選挙でこれからどういう人が大統領になるか分かりませんが、もしかすると、アメリカはまた外に目を向け始めるかもしれません。


紛争抑止の諸法

そういったことが今の世界の紛争の様相ですが、次は、そういう紛争を解決していくためにはどうしたらいいかという問題であります。先ほどは、紛争のearly warning systemをつくったらいいというお話がありましたが、私のはもっと一般的な話であります。

国際紛争を起こさないためには、もちろん国際的な安全保障メカニズムが必要であります。それから軍縮です。それに加えて、途上国の経済向上を支援することが非常に必要であると思います。経済状態が悪いところで民主主義を広めようと思っても広まらないので、ある程度、経済を良くして中産階級をつくらないと、民主主義、それから自由の基盤はできないと思います。

市民社会は、その中で何ができるかということですが、これは午後のテーマなので飛ばします。市民社会というのは自由と権利であるし、ほかの人の自由と権利も守らなければいけないわけですよね。そのためには判断力を備えていなければならないのですが、アメリカのNGOばかり批判するわけではありませんが、スライドに示した「B」の判断力がないNGOがあるわけです。そうしますと、NGOは紛争要因になります。

ですから、そのような方向に市民社会が動かないように、先進国、途上国、双方での教育が必要なのだと思います。それから、現在、世界の秩序、特に西側の秩序を維持してくれているのは米軍である、という面が強いわけですが、あまりに「米軍=世界の警察官」ということに依存しすぎているのは、われわれにとってもよくないし、アメリカにとっても不公平だという面があると思います。アメリカの青年が犠牲になるからです。それから、これはわれわれにとってはあまりよくないことですが、米軍というのはアメリカの国家が持っていますから、時に米国政府のエゴで動くことがあるわけですね。必ずしも、その他の国の利益に沿って動いてくれるわけではないという問題があります。

(スライド20)

ですから、アメリカ軍だけに頼らないですむように、われわれ自身も抑止力を整備する必要があるのだと思います。それは戦争をするためではなく、戦争を仕掛けさせないための力の整備が必要だということです。

これが最後のスライドですが、現在、核削減への動きは、また上向くのではないかというのが、私が持っている仮説です。左側の項目ですが、イランの核開発の制限の合意ができました。スライドで「ロシアの手詰まり」というのは何かというと、ロシア経済が経済制裁、原油価格の暴落でもって、非常に追い込まれています。

中国も経済が停滞しています。この3つの要素がスライド右側の「オバマさんの公約」、つまり彼が大統領になって早々の時にベルリンで言ったことですが、2016年、アメリカで核安全保障問題サミットをやる、ということに結び付きますと、核軍縮の方向に話しが転がりやすくなるのではないかと思うわけです。日本にとっては、やりやすくなるわけですよね。

この核安全保障問題サミットで話し合われるべき問題は何かというと、2021年に切れる米ロ「新START条約」の次の交渉を始めるということがあります。今のところロシアが抵抗していて、交渉には応じないと言っているのですが、ロシアの手詰まりという要素がありますから、来年の春までには新しいSTART条約の交渉に応じるかもしれないと思います。
それから、それの並びで東欧諸国にアメリカのミサイルを配備するという問題があるのですが、もしかすると、アメリカはこれをロシアに対する取り引き材料として諦めてみせるかもしれないと思います。

同時に、日本としてぜひやってもらいたいのは、中国の核兵器の削減に関する交渉を始めてもらいたいと思うわけです。ここでは、中国の経済停滞による中国側の手詰まりという状況がプラスに働きうる可能性があるので、日本も米国も中国に対して交渉をやれという圧力をどんどん高めるべきだと思います。それから、北朝鮮も同様であります。
以上です。どうもありがとうございました。

">

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/3104