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2015年11月10日

米国外交の分裂とロシアの過剰反応

(これは、10月28日発行のメルマガ「文明の万華鏡」からの抜粋です。全文はhttp://www.japan-world-trends.com/ja/subscribe.phpにてご覧いただけます)

米国外交の分裂(政府・議会・NGO)とロシアの過剰反応

 クリミアであれ、シリアであれ、ロシアは米国の影がちらつくたびに過剰反応している気味がある。そこには、米国がやっていることはロシアもやってなぜ悪いという子供じみた気負い、そしてそれとは裏腹に、ロシアは実は脆弱なのだという恐怖心がほの見える。ロシアは、米国が他国で煽動する「色つき革命」を非常に恐れているのである。2003年グルジア(ジョージア)での「バラ(桃色)革命」、2004年ウクライナでの「オレンジ革命」などは、米国の人権団体などの指導も得て、地元の野党勢力が不満分子を動員、その力で政権を転覆させたものであるが、プーチンの頭の中には、2011年12月モスクワで十万人とも見られる大規模な反政府集会が開かれた情景がこびりついているのに違いない。シリアでの色つき革命を認めれば、それはいつか必ずロシアに波及してくるだろう、という恐怖心である。

問題は、米国のオバマ政権の側にはそれを自分がやっているという意識がないことだ。オバマはアフガニスタン、イラクからの米軍撤退を公約に大統領になった人物なので、海外の紛争への関与には極度に慎重なのである。ところが米国の与野党は傘下に人権・民主主義普及団体(NGO)を抱える。民主党はNational Democratic Institute、共和党はInternational Republican Institute、後者の会長はマッケイン上院議員。政党系以外にも、National Endowment for Democracy(NED), Freedom House, Open Society Instituteなどの団体は多くの国に事務所を有し、地元野党勢力に資金も渡して活動を支援している(但し、これら団体のサイトを見ても、財務関係のデータが欠落して、不透明である)。

そうやって活動先の情勢が不安定化すると、これら勢力はオバマ大統領に介入を求め、大統領が逡巡すると臆病だとして非難、次の選挙で民主党をたたくのに利用しようとする。マッケイン議員はこれまでも、ジョージア、ウクライナ、シリアなど諸方をまわって民主勢力を鼓舞している。

僕がウズベキスタンに勤務していた2000年代初め、米国の民主化運動諸団体が恣に活動していた。この国は権威主義が非常に強いところで、自由化、民主化は絶対に必要なのだが、これら米国NGOには何をどうやるという青写真がない。とにかく現在の権力を倒す、この一点なのである。途上国においては、少ない富をいくつかの利権集団が微妙なバランスの上に分かち合っている。この構造を壊すと、利権の再配分のために5年は騒動が続き、また別のバランスができて権威主義的支配は続く。この間、庶民が得るものは何もない。騒動の結果、命を失うかもしれないし、国内難民や海外への難民にならざるを得ないかもしれない。

そう思って僕は、米国大使館の同僚に聞いてみたのだが、彼は「自分も同感なのだが、こうしたNGOには干渉できない。ワシントンの政党の下にあるので」と言っていた。それから数カ月後、ウズベキスタン政府は「米国国務省による内政干渉」を非難し、米国NGOの大多数を国から追い出してしまった。

これら団体には、米議会から手厚い予算をもらっているNPOのNational Endowment for Democracy等から、多額の助成金が支払われている。この金は国務省のUSAIDなどを通して配られることが多いため、ロシアにしてみれば大統領の意向で動いているとしか見えない。いくらオバマは自分はやっていないと思っていても、ロシアにしてみれば「オバマは二枚舌だ」ということになるのである。

ロシアがそのように思い込んで過剰な反応をすると、今度はオバマ政権が逆ギレする。オバマには、おとなしくなった、言うことを聞くようになったと思っていたロシアが突然、「理由もなしに」飛びかかってきたように見えるからだ。米国人は、子どもが口答えをすると、体罰を加えてでもしつけようとする傾向がある。

まあそういうわけで、米国が政府、政党、NGOとそれぞれ自分の「外交」を展開するので、捩じれが生じ、あたかもオバマは優柔不断で米国の力も落ちているような印象が生じてしまう。ワシントン内部のいさかいが、そのまま海外にこぼれ出ているのである。

日本としては迷惑な話だが、モノ申しても直らない。かえって米国内の諸勢力から叩かれるだけの話し。アジア方面で問題を起こさなければ、黙っているのが得策だ。">


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