米国外に伸びる米司法の管轄権 その意味合い
5月27日スイスで、国際サッカー連盟(FIFA)の幹部6名が収賄容疑で一網打尽に捕まった。FIFAという国際的団体の様々な国籍の幹部がスイスの官憲によって逮捕されること自体、特異なことだし、これがアメリカ司法当局の要請に基づきスイスの官憲が行った、容疑者のアメリカへの送還もあり得るということになると、本当にそうなのかよ、アメリカはいつから世界の警察になったんだよ、という疑問が起きる。
しかしつらつら考えてみれば、これは米国とスイスが捜査共助とか犯罪人引渡しについて条約を結んでいれば(結んでいるだろう)当然あることなのだ。FIFAの幹部は、米国の裁判所で訴えられていたので、こういうことになる。
ロシアのプーチン大統領は例によって、これは米国による不当な干渉だ、米国司法の管轄権の不当な拡大だ、ブラッターFIFA会長の再選を妨害するためだと公言しているが、上記のように、今回の米国の行動は国際法、条約にかなったものなのである。
プーチンがなぜわざわざFIFAのことに言及するかと言うと、2018年次のワールド・カップがロシアで開かれることになっていて、これがクリミア問題で覆されることを恐れているという事情がある。今後FIFAの捜査が進むにつれて、2018年ロシアでのワールド・カップ開催決定の裏でも金が動いたことが判明すれば一悶着あるだろう。
FIFA幹部逮捕は国際法に合致していると言えるが、それとは別に、最近米国司法の管轄権が外国に一方的に及ぶことが多くなっていることは、国際的な議論を必要とする。TPPとの関連で一部の人が問題にしているISD(Investor State Dispute Settlement 投資家対国家間の紛争解決条項)、コンプライアンス、ディスカバリー等が議論の対象になるだろう。
ISDとは、TPPなり別の自由貿易協定で、ある企業が加盟国への投資等で現地当局から不当な扱いを受けた場合、その国の政府を国際調停機関に訴えることができるという条項で(日本企業が米国政府を訴えることもできる)、これは米国司法の管轄権拡大を意味しない。国際調停機関は世界にいくつかあるが、例えばWTOのパネルでは米国が敗訴する例も数多く、とても米国横暴の実例とは言えない。TPPのISDも、将来中国がTPPに入ってきた場合、日本企業にとっては中国での投資を当局による不当な介入から守る上での絶好の手段となるだろう。
コンプライアンス、ディスカバリー等について詳しい説明はやめるが、「米国でビジネスをしたいのだったら、米国法、米国裁判所の意向を尊重しろ」ということなのだが、これは米国司法の実質的な管轄権拡大と言え、OECDなど国際的な場での議論を必要とする。
今回のFIFA捕り物騒動の舞台となったスイスという国は、スイスの銀行に口座を持つ者の個人情報を外部に絶対明かさないことで、世界中の脛に傷持つ者達の資金を誘致してきたが、これも最近では米国からの圧力で開示をするようになっている。世界中の脛に傷持つ者達にとって、スイスはもう安全な場所ではない。
このような場合、米国司法権の膨張は世界国家化の走りとも言えるもので、好い効果も持つのだろうが、その大きな権力が米国という一国家の管轄下にあって、他の国民の関与が不可能であること、そして時に米国企業・国民の利益擁護に傾き過ぎることなど、とても世界国家と言えないことが問題で、これは国際的な議論によって少しでも公平性、透明性の高いものに変えていかないといけない。日本はそういう議論、提言を発信するのに適した国だと思う。
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