ウクライナ情勢 いくつかの裏の動き
(以下はメルマガ「文明の万華鏡」第34号よりの抜粋。全文はhttp://www.mag2.com/m/0001519110.html でご覧いただけます)
2月11-12日のミンスクでの停戦交渉については、面白い話しを読んだ。この時は、ポロシェンコ、メルケル、オランド、プーチンの4首脳が停戦を決めたことになっているが、この時ミンスクの別の場で停戦条件を具体的に決める交渉が行われていたというのである。こちらの交渉に出ていたのはクチマ・ウクライナ元大統領(そしてその右腕のメドヴェドチュクも当然出席していたことだろう。彼はクチマ大統領時代の大統領府長官で、プーチンとも非常に親しい)、東ウクライナの親露勢力の代表のザハルチェンコとプロトニツキー、そして在ウクライナのロシア大使・ズラーボフ。二つの交渉の間を往来していたのが、スルコフ・元ロシア大統領府副長官(現在は大統領府補佐官に返り咲いて、ウクライナ問題等を担当してきたが、潜水艦のように潜航してその動向はマスコミに出て来なかった)である。首脳会談で決定的な場面が訪れると、プーチンはザハルチェンコ等に電話で了解を求めていた。停戦の条件はかなり詳しく定められており、インターネットにも出ているのだが、首脳達は署名していない。署名したのは、「別の交渉」に出ていた代表達で、彼らは9月初めのミンスク停戦交渉と同じ顔ぶれである。このように複雑になったのは、プーチンが言ったように、ポロシェンコが親露勢力の代表との直談判を拒否したからである。
親露勢力は停戦合意後もデヴァリツェヴォ等、戦略的要衝を収める動きを続けているが、欧米は本腰で対抗していない。12日の停戦合意は、IMFからの17.5億ドル救済融資をかたに、ウクライナの実質的分割をポロシェンコにのませた意味を持っているからだ。ケリー長官は停戦合意を祝福し、独仏首脳の努力を評価する声明を発表している。「ウクライナよりも中近東」というのが米政権の本音だろうし、独仏もウクライナ情勢を「何でもいいから静かにさせる」ことに異存はない。
しかしウクライナに武力介入するかどうかをめぐっては、ワシントン政界は分裂している。プーチンが拡張主義に走っているのか、それとも米国がNATOを拡張しようとしたからプーチンが反撃しているのか、議論はこの点を軸として展開する。前者にしてみれば、プーチンはロシアの軍拡を進める危険人物なので、米国はウクライナに介入するとともに、プーチン政権を経済制裁で転覆してしまえということになる。
この論争は民主党、共和党に整然と分かれて行われているものではない。オバマ大統領はパワー・ポリティクスが嫌いで、環境・疫病・テロ等の「グローバル・イシュー」に傾倒しているのに対して、安全保障問題補佐官のスーザン・ライス、国務省のウクライナ・欧州担当のヌーランド次官補は民主化のための介入を厭わない。
(省略)
ウクライナの話しを複雑にするのは、ウクライナでは絶対的に強いということになっているロシア軍にも、実は限界があるということだ。2月10日Moscow Timesで軍事専門のリベラル系記者ゴーリツが言ったことだが、ロシア軍で実戦に使える兵力は職業兵30万人しかいない(ロシアは徴兵制だが、兵役期間はかつての2年間から1年に縮小されており、実戦に投入できる練度を持たない)、このうちウクライナでの地上戦に使えるよう訓練を受けている者はさらに少ない、ロシアはこれからアフガニスタンから脅威を受ける中央アジア方面にも派兵の必要があるので、東ウクライナでの短期決戦ならいざ知らず、長期にわたって占領地域を維持するのは困難だ、ということである。まあ、占領地域の維持は職業兵に依存することもないので、この点を誇張するのも考え物だが、プーチンをして東ウクライナ紛争は早く凍結したいという気持ちにさせるひとつの要因ではあるだろう。
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