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世界はこう変わる

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2007年12月14日

ロシア情勢メモ 07年11~12月

(忙しくてさぼっていたので、11月からのニュースを恣意的に選んでコメントする。月日順に並べていく)

★プーチン大統領、スターリンの大粛清犠牲者を悼む
10月30日、プーチン大統領はアレクシー2世・ロシア正教総主教と、モスクワ南郊ブートヴォの教会を訪れた。ここはソ連内務省の射撃場があったところで、スターリンの大粛清で2万名以上が銃殺されたところだという。今年は大粛清が始まって70周年。ソ連、ロシアを通じて指導者がこの場所を訪れたのは初めてだそうだ。
プーチンの政策をスターリン復活だと言う人もいるが、そうではないーーーということが示された。

★「シロビキ」内部の勢力争いーーー続き
このブログで何度も触れた「シロビキ」内部の勢力争いは、総選挙直前まで続いていた。
例えば10月31日、保守紙「Zavtra」にクリュチコフ元ソ連KGB議長とグセイノフ・アゼルバイジャン共和国(ソ連時代の)KGB議長が共同で寄稿した。クリュチコフというのはKGBの生え抜きで、1991年8月クーデターの首謀者なのだが、その後なぜか釈放されていた人物だ。
で彼らは、連邦保安庁長官パトルシェフと対立するチェルケーソフ麻薬取締り庁長官の肩を持つ論調で、シロビキ同士の争いを戒め、「すべては物欲のせい」だとしたのだ。
そのクリュチコフ氏は11月25日、エリート用のモスクワ中央病院で「長期の難しい病気のあと」死去したことがリークされた。そんな病気の人がなぜ、そんな高度の政治的判断を必要とする記事を書くことができたのだろう。

★頼みの綱、貿易黒字の消滅?―2011年の予想
11月、経済発展貿易省のマクロ経済分析専門家クレパッチ氏が公開の場で、「経常収支は2010年までに300~360億ドルの赤字になるだろう。貿易収支は2011年には赤字になるだろう。資本収支は07年750~770億ドルの純流入(昨年409億)だった」と述べた。
石油大国ロシアの貿易収支がなんで赤字になるかというと、それは輸入が急増しているからだ。輸出は石油価格上昇が著しかった今年でも10%くらいしか増えないが、輸入はここ数年30~40%の勢いで毎年伸びている。銀行がヨーロッパの市場で借りまくっては、ロシア国内で消費者ローンを貸しまくっているからだ。
まあ、サブプライム騒ぎでヨーロッパの金も借りにくくなったので、消費の伸びも落ちるだろうが、石油価格の伸びも落ちるので、ロシア経済の運営はこれからそれほど簡単ではない。
外国企業の直接投資に依存する度合いが益々強くなってくるだろう。

★与党「統一」がはらむリスク
「統一」は総選挙で大勝したけれど、候補者リストのトップに据えたプーチン大統領の人気に大きく助けられたのだ。中央、地方のお偉方達を網羅した感じの(その意味ではソ連時代の共産党と同じだ)「統一」は、決して人気があるわけじゃない。
(そして、ロシアの有権者もプーチン大統領に絶対の忠誠を誓っているわけじゃない。10月末レヴァダ研究所の世論調査では、「プーチン以外にいい大統領候補はいない」という見解に反対する者が45%、賛成する者が43%、大統領交代で国に不幸が訪れると考えるのは全体の4分の1で、60%は「何もたいしたこと起こらない」と答えたそうだ。意外とサメてる)
11月プーチン大統領が、シベリアの真ん中にあるクラスノヤルスクで建設労働者と対話した様がテレビで放映されたそうだが、労働者達はプーチンに「なぜ統一などから立つのか」と聞いたという。これに対してプーチン大統領は、「あの党も駄目な奴が多いけど、これよりいい政党がないからな」と答えた。
エリツィン大統領は、政党からは距離を置いていた。政党には国民の不満を集中させておいて、自分は上に立っている方がいいだろう、という算段だ。プーチン大統領が「統一」に入れ込みすぎることは、だからリスクを伴う。一党支配的な性格が強い政体は、インフレなどで国民の不満が高まった時、その憎しみを一身に浴び、暴力的に倒されてしまう危険性を持つ。1991年のソ連共産党の運命がそれだ。選挙で野党に代わる、という選択肢を持たないからだ。

★沿海地方、与党「統一」得票率最低。予算はどうなる?
12月2日の総選挙では多くの悲喜劇が繰り広げられた。悪意ある西側の報道では、モスクワの投票所にバスで集団でやってきた一団にインタビューしたところ、「こうやって朝から方々の投票所を引き回されてる。でもまだ約束の金をくれねえんだ」と答えたとか。まさか。
選挙が終わると、地元のお偉方達はモスクワからぎりぎりやられることになる。「お前のところでの『統一』の得票率の低さはなんだ」と。ウラジオストックのある沿海地方。ここは以前から与党が弱いところ(自由民主党か共産党が強い)なのだが、今回も与党「統一」の得票率は50%、全国でも低い方だった(全国平均は60%台前半。もっともモスクワで54%、サンクト・ペテルブルクで50%というからそれほど・・・)。
41%しかなかったウドムルチアでは市長が選挙後に辞任している。ここは石油都市で金持ちなのだが、なんで与党に不満があるのか。2006年ロスネフチ(プーチン大統領の右腕セーチン大統領府副長官が会長)が中国のSinopecと組んで「ウドムルト石油」を買収したことがある。それが悪かったんだろうか? 因みに当時のSinopec社長Chen Tonghaiは、10月に逮捕されている。
で、沿海地方に話を戻すと、こんなに選挙での成績が悪いと、地方幹部の首か、それともモスクワからの予算の出方に影響するのではないか、ということです。

★「ロシア艦隊」の復活
12月初め、北東大西洋、地中海でロシアの艦隊が遊弋を再開した。2月3日まで航海を続け、その間6カ国に寄港訪問するのだそうだ。示威と友好を兼ねた行い。
ソ連崩壊後止めていたのを復活したもので、8月に戦略爆撃機による仮想敵国への接近飛行再開と同じ動きだ。但しロシア海軍にはまともな空母はない。何隻か作ってはみたものの、使い物になる前にソ連が崩壊して売り飛ばしてしまったのだ。

★NATOとの通常兵器削減条約遵守は停止したが、敵対するつもりはないロシア
12月、ロシアはNATOとの通常兵器削減条約(CFE)遵守を一方的に一時停止したが、これはソ連時代にできたこの条約がソ連崩壊後はロシアに不利になっているのに、NATO側がロシア軍のグルジアやモルドヴァ領内からの撤退を改定の条件にして、今まで埒があいていなかったものだ。
ロシアは多分、情勢が不安定なコーカサス方面での軍隊の移動(CFEが縛りをかけている)などを自由に行いたいのだろう。ロシアによる遵守停止が始まった直後、グルシコ外務次官は「CFE遵守を停止しても、ロシアは対欧国境では軍備増強しない」とわざわざ声明している。
ロシアは西側との関係でけじめはつける。しかし対決は考えていない。CFEについても、今NATO側がロシアに新しい提案をしていて、改定交渉開始の方向にもっていこうとしている。
ロシアは、1月に大統領選挙を抱えるグルジア情勢がどう展開するか、そして3月の大統領選挙で右翼的な「反西側」の立場をどのくらい使えるかを見極めて、対処してくるだろう。

★そして冷戦復活もないだろう
12月 バルエフスキー参謀総長が訪米から帰って記者に述べた。Mullen参謀総長と世界情勢、特にイラク、アフガン、コソボ情勢について話し合ってきた(イランに言及していないのが面白い)、軍の間の交流協定に署名もしてきた、と。07年の交流計画は80%遂行ずみ、08年はミサイル防衛、海上捜索救難、ハイジャック対処などでの共同訓練を予定している。
軍と軍の間はいくら対立しているように見えても交流もしているもので、ロシアと米国の間もそうなのだ。そうやって信頼関係を築きある程度手の内を見せ合えば、不信や恐怖心から偶発戦争が起こるのも防げるからだ。
ロシアは、欧米がユーゴを爆撃しNATOをバルト諸国に拡大して以来、「自分がいくら仲間だと言っても、欧米はそう思ってくれない。それどころか・・・」ということでめっきり態度を変え、総選挙の前もプーチン大統領が与党青年団体の集会で「ロシアには内外に敵がいる」などと、まるで冷戦時代のような言辞を使うようになった。石油価格も高いから、ロシアの立場は強いのだ。
だがロシアの右翼的言動にも自制が効いている。冷戦はまだ復活しない。大体少子化で核ミサイル製造技術者も四散したロシアは、簡単に戦力を復活できない。中東問題にかかりきりの米国は、ロシアが何を言っても宥めるか無視するかで、これも冷戦を復活させる気持ちはない。


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