世界秩序のプレート構造
(以下は今書いている本からの抜粋)
地球の地殻はいくつかの鎧のようなプレートに覆われている。そのプレートは地殻の表面を少しずつ動いていて、互いにのしかかり、もぐりこんでいる。そのひずみが溜まると撥ね返って、地震となるのである。戦後、世界には単一の自由市場が成立したと書いたが、それは「アングロ・サクソン・ユダヤ」の力が及ぶ範囲に限られ、実際の世界ではその他の大きな勢力、中国、ロシア、インドなどが、あたかもプレートのように世界の上を漂って、他のプレートとぶつかり合い、せめぎ合い、合体しては、国際政治、世界経済を作り上げている。
そして現代世界の国家、プレートは大きく三種類に分類できる。一つは産業革命以来、前向きに技術革新、制度改革を続けることで富を「創って」いる国々――ずいぶん理想化したものの言い方ではあるが――、いわゆる先進国である。このプレートには「アングロ・サクソン・ユダヤ」のグループと、大陸欧州、そして日本・大洋州諸国が入っている。二つ目は、先進国から仕入れた富を社会の中で分配することで存続している社会主義国である。ロシアは、石油・ガスを輸出して得た収入を社会全体で分けている――格差と不正がひどいが――点で、今でも社会主義的な国である。そして三つ目は途上国で、ここでは先進国からの投資がないと右肩上がりの成長は起こらない。
このうち先進国は不況に時々見舞われながらも、まだ自力で成長していく力を失っていない。社会主義国と途上国――途上国で社会主義体制をとっているものもある――は、自力で富を増やすことはできないため、分配⇒格差への不満⇒暴動⇒新たな分配方法⇒新しい格差への不満⇒暴動という、不毛のサイクルに陥りやすい。
十九世紀末、ロシアは西欧からの投資を受けて急速に成長したが、社会は帝政の下で抑圧されていた。その閉塞感を描いたのがチェーホフの「桜の園」などの作品なのだが、この一九〇四年に初演された戯曲に良く似た雰囲気が現在のロシアを支配している。百年以上も経って、いつか見たような情景に、ロシアは帰ってきた。新しい富を自分で創造できない国は、堂々巡りにおちいるのである。
同じことは、中国についても言えるだろう。この国はアメリカと並ぶGDPを持ちながら、統計数字の多くの信憑性に問題があり――企業は輸出入を過剰に申告することで不正資金の出し入れを行っている――、かつ国営企業が主であるために、イノベーションを不断に行う活力が不足している。しかも、選挙で与野党が交替する制度になっていないために、いったん国民が生活に不満を持つと、暴動と鎮圧を繰り返すことになりかねない。武力で創られた王朝が経済運営に失敗してまた次の王朝に武力で倒される、という不毛のサイクルが現代に繰り返されかねないのである。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/2874