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世界はこう変わる

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2014年9月 9日

国際経営断片   コンプライアンスの行き過ぎ

(以下は、今書いている本からの抜粋)

海外での日本企業の営業が弱いのは、一つには最近国際化したばかりの製造業の社員にはまだ経験が足りないというのと、もう一つ「コンプライアンス」――企業の不正を罰しようとする世界的な動き――の問題があるだろう。「コンプライアンス」は、このごろきつくなる一方。コンプライアンスという錦の御旗で、先進国の企業は罰金や高い弁護士費用をむしり取られている。たとえば二〇〇八年、ドイツのシーメンスは第三国での不正取引について、千億円を超える罰金をアメリカ、ドイツ両国政府に支払った。新大陸からの金銀を積んだスペイン商船を英国政府公認の「海賊船」が襲った十六世紀を髣髴とさせるような構図である。先進諸国では大卒の就職難で、弁護士がやたら増えているので、こうした連中にとっても巨額の賠償金がからむコンプライアンス関係の訴訟はおいしくて仕方がない。

そもそもコンプライアンスとは一九七七年、アメリカ議会が「海外腐敗行為防止法」を採択し、米企業が海外で贈賄行為をするのを禁じたことに始まる。これは軍需企業のロッキードが日本など外国で贈賄行為を行い、大きな政治問題を引き起こしたことが原因とされている。だがこれで、米企業は他の先進国企業に比べて不利な立場に置かれてしまった。途上国や旧社会主義国など、役人の力が強い国では、贈賄や接待はビジネスにおいて必要悪だからである。

そこでアメリカはOECD に働きかけて一九九七年、「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」を実現する。他の先進国企業の手も縛ろうとしたわけで、日本も一九九八年には「不正競争防止法」を改正して、外国公務員への贈賄を処罰の対象とした。
そしてアメリカは、新興電力企業のエンロンが二〇〇一年、不正事件を起こして倒産したのをきっかけに、企業に一層厳しいガバナンス(内部統制)を求める「サーベンス・オクスリー法(SOX法)」を採択した。これは、アメリカで活動する外国企業にも適用されるため、日本も二〇〇四年、不正競争防止法を再度改正し、国民が外国で贈賄行為をした場合、これを日本の刑法によっても処罰することを定めた。

 アメリカではこのSOX法によって、企業の脱税など不正行為を当局に通報し(内部告発)、それが真実だと、多額の賞金をもらえることになっている。日本でも、内部告発は奨励され始めている。良いことだ。内部からの通報がないと、不正、悪事はわかりにくい。だが度が過ぎると、競争相手の企業が内部告発を装って当局に偽情報を売り込んだり、社員を買収して内部告発をさせることも起きるだろう。日本の監査法人大手はアメリカの監査大手と提携し、ロイヤルティーを払うなど「系列化」してしまっているので、ここを通じて社内情報がアメリカの監査大手に握られて、ある日突然「不正」をアメリカ当局から指摘される危険性もある。

 これでは行き過ぎだ。日本だけではない。アメリカやヨーロッパの企業も、これではビジネスができない。コンプライアンスは、ビジネスをやりやすくするために考え出されたものではないか。それが今では、中国やASEANの企業は野放し、先進国の競争相手だけ訴えて罰金をむしり取る、という時代になってしまった。日本政府は、ただ守勢に回って「コンプライアンス」を企業に「教える」だけではなく、行き過ぎの是正に向けてOECDなどの場で泥にまみれてでも根回しをして欲しい。

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