Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2014年9月 9日

国際経営断片   品質と性能 だけでモノは売れない

(以下は、今書いている本からの抜粋)

戦後、日本経済がまだ大きくなる前、外国とのビジネスは「手作り」でやったものだ。大使館でレセプションをやる時は、外交官の夫人達が総出で海苔巻や卵焼きを作ったし、日本人の商社員がアメリカ奥地のガソリン・スタンドを回って日本車を置いてもらったり、途上国ではこれまた商社員が取り引き相手の大臣達を毎週ゴルフやナイト・クラブで接待してコネを作る等々、本当に汗と涙を流してやっていたものだ。

ところが日本が経済大国になると、自分の手ではさわらずに、アウト・ソーシングでやろうとか、コンサルを使おうとか、現地人の販売網に任せようとかいうことになり、外国企業の買収でさえ、外国人の法律事務所や会計事務所任せにしたりする。「コンプライアンス」が普及して、得意先とゴルフに行くのもはばかられる。その昔、商社員達が日本でも外国でも接待攻勢にしのぎを削ってモノを売り込んでいた頃に比べると、ビジネスもめっきりおとなしくなった。無菌ビジネスとでも言おうか。優等生ビジネスとでも言おうか。優等生というものは口先だけで、汚れ仕事はやらない。「うちの製品は品質や性能がすごいから」というだけで、モノが売れると思い込んでいる

そんなことは全然ないのである。たとえば新幹線の技術。確かにあんな蛇のように長い、十六両(!)編成もの列車が最短三分(!)の間隔で走って事故もない、というのは奇蹟に近い。しかし途上国に行って、そんなことが売り込みの助けになると思ったら大間違いだ。途上国の役人は、「何でもいい。既存のレールでもいい、一日二本、三両編成でもいいので、とにかく来月までに三百キロで何(・)か(・)を(・)走らせて欲しい。俺はそれを手柄にして昇進するのだ」という気持ちでいる。またはその商談でしこたま私腹を肥やし、一生南米で左うちわで暮らしたい、と思っているかもしれない。何年も真面目にフィージビリティー調査などやっていられたら、彼らは配転になってしまうかもしれないのだ。そういうところに、「性能と実績」を何ページもくだくだ書いたパンフレットを置いてきても、売れるわけがない。向こうはまず、ナイト・クラブででも話しを聞こうと思っているかもしれないのだ。

だから優等生は、営業担当としては最低の人材だし、経理や人事をやらせれば血が通っていない杓子定規の仕切りをして企業をめちゃくちゃにしてしまう。有名大学の学生は、国内の受験競争を勝ち抜いてきたので優秀だが、その中から人間の心を持っている者を選ばないと、企業のためにならない。

こうした困った現状を、日本の官僚達が何とか行政指導してくれないかとも思うが、若手の役人は企業活動の現場も知らず、複雑にからまった社会の利権構造に手を触れることもなく、「優れた政策を考え出す」能力は自分達しか持っていない、自分達は企業より「上」で、企業を指導(・・)できる(・・・)とただただ思い込んでいる。実際のところ「何をどうすれば一番いいのか」という政策論は、ものごとをよく調べれば誰でも考えつくもので、本当に難しいのは、その「一番いいこと」に抵抗する利権集団、国会議員等をなだめすかして法案を作り、財務省主計局に日参して必要な予算を取り、マスコミに売り込むという、バイキンだらけの力仕事なのだ。無菌の優等生のままでいて、通るはずがない。

優等生達が頼りにしてきた「日本の技術、わが社の技術は優れている」という神話にも黄信号、いや、いくつかの分野ではもうはっきり赤信号がついている。アメリカは、あれだけ「空洞化」したと言われながらも、製造業の生産高では世界一位の座を明け渡したことがないし――多くの部品を輸入しているが――、ドイツ人の作るものはきっちりしていて日本のものより持ちがいい。コンピューターのソフトの技術でアメリカが勝っていることはもちろん、モノ作りでも日本の優位は一部の分野に限られている。
日本がリードしていると思っていたロボットでも、アメリカは無人機や海中探査ロボットとか、アフガニスタンの山地を重い荷物をかついで歩くロバ・ロボットとか、何でも開発してしまう。遺伝子や脳波や原子など、物理学・生物学・化学の根幹原理を活用する・・・このようなパラダイム(発想の枠)転換を伴うこれからの技術は、アメリカの独壇場に近い。これは、アメリカ人――「アメリカ人」という人種はもともといない――が能力的に優れているということではなく、アメリカの法制度、金融、外国人受け入れ態勢などが革新・ヴェンチャーに好都合になっているからである。そのうち日本の企業は、技術でもダメ、値引きと営業で頑張るしかない、ということになりかねない。

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