水野和夫氏の資本主義黄昏論について
水野和夫氏の資本主義黄昏論について
――企業が動かしていく経済はいつまで――
(これは、メルマガ「文明の万華鏡」第26号から抜粋したものです。全文は「文明の万華鏡」をご覧ください)
エコノミストの水野和夫氏は最近、「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)を出版した。この表題は、1992年に米国の思想家フランシス福山が出版して世界の話題をさらった「The End of History and the Last Man」をもじったものだろう。ここで水野氏が言わんとしていることは、5月27日付「エコノミスト」に短く書いてあるので、こちらを参照すると、①利潤率が2%を切ると、企業は投資意欲を失って経済は停滞する。現在の世界は新しいフロンティアを失っており、資本主義の終焉と言っていい状況になっている、②資本主義は富の集中、偏在を生みやすい。国内では諸階層間の、世界では国家間の収奪・格差構造を生み出す、③資本主義の代替策は自分にもないが、漠然とイメージしているものは、ゼロ成長でも成り立つ「定常社会」である、この3点に大体集約できる。
僕は、これらの見方には賛成できない。マルクスの昔から、資本主義は成長力を失って崩壊すると言われているが、まだ崩壊していない。水野氏の言う通り、利潤の伸び率が落ちていることは事実だろうが、2%前後の伸びがあれば、投資意欲は確保できるだろう。そしてこれまでのように中国とかインドとかの大市場が一度に加わってくることはもうないにしても、世界の60億人以上を相手にモノを作り、サービスを売っていけば、なにがしかの利潤を上げることはできるだろう。そして、新しい技術、新しいビジネス・モデルが出てくれば(シュンペーターの言うイノベーションだ)投資は行われる。そして現代はまさに一大イノベーションの時代なのである。
水野氏等悲観論者の言うとおりだと、産業革命以来、世界の経済を支えてきた「企業」、つまり株式会社制度というものは、もう終わりだということになる。そして企業が活動してきた環境、つまり市場経済も、根本的見直しの時期と言うことになる。
そうなると、将来の経済の姿はどうなるのか? 計画経済? 企業の国営化? ソ連経済の体たらくを現場で見てきた僕としては、やめてくれよと言いたい。いくら多種少量生産の時代になったとしても、製造業が多額の設備投資を必要とする――つまり株式で資金を集める必要性がある――ことに変わりはない。企業を国営化しろ? 経済を計画化しろ? 国営化は、企業の活力を奪う。そして、経済の計画化は不可能である。人間の欲望、需要まで計画することはできない――単純なこの一つの理由による。やはり競争と不断のイノベーション、この二つで経済を回していくしかないだろう。
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