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世界はこう変わる

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2007年10月18日

ユーラシア中央をじわりと固めるロシア――CIS首脳会議に寄せて


10月5日~7日、タジキスタンの首都ドシャンベで独立国家共同体(CIS)の首脳会議、そして「集団安全保障条約機構」首脳会議が行われた。

1.あまり盛り上がらなかったCIS首脳会議
CISというのは、バルト諸国を除く旧ソ連のこと。よく首脳会議が開かれているが、ソ連崩壊の遠心力はまだ働いていて、求心力はなかなか生まれてこない。
今回もロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3国が「ユーラシア経済共同体・関税同盟」創設文書に署名したが(この数年、ずっとこの種の文書が作られているが、実際の関税同盟は発足していない)、首脳会議自体はあまり盛り上がらなかったようだ。

★たとえば、議長国カザフスタンがこの1年、散々苦労して「CIS発展のためのコンセプト」を起草したのに、グルジア、トルクメニスタンはこれに署名せず、アゼルバイジャンは一部留保を付して署名した。ユシェンコ・ウクライナ大統領はそもそもこの首脳会議にはぜんぜん出席せず、パリに行ってしまうという始末。

出稼ぎ労働者の地位に関する合意文書も準備されていたが、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、グルジア、モルドヴァの各首脳は署名しなかった。これら諸国からはロシアに多数の出稼ぎ者が行っているが、用意された文書ではその権利の保護が十分でなかったのだろう。

★さらにナザルバエフ・カザフ大統領は、「中央アジアだけで経済グループを作る」ことを提案したようだし(中央アジアだけから成るCACOという組織が2004年4月まであったのだが)、「CIS条約の条件を緩和し、他の同盟への同時加盟も可能とする修正を採択した」という報道もあった(未確認)。最後のは、NATO加盟を狙っているウクライナ、グルジアとの関連で興味深い。

2.じわりと重要性を増した「集団安全保障条約機構」
★「集団安全保障条約機構」とは?
「集団安全保障条約機構」とは聞きなれない名前だが、旧ソ連諸国の一部がロシアを中心に安全保障をはかろうとしている組織だと思えばいい。東欧諸国も含んでいた、冷戦時代のワルシャワ条約機構に比べれば全然小さくて、メンバーは7カ国、つまりロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンだけなのだ。
ワルシャワ条約機構が解散して以来、東欧諸国の大半、そしてバルト諸国は既にNATOに加盟してしまったし、旧ソ連の一部だったウクライナ、アゼルバイジャン、グルジアはNATOにめっきり傾斜、モルドヴァは去就に迷い、トルクメニスタンは永世中立国を標榜しているという状況だ。
それでもロシアはこの集団安全保障条約機構の充実に徐々に努め、2001年5月には「集団緊急展開軍」を編成することを決定している。もっとも、これも各国が既に要する師団、大隊など合計1,500人程に「集団緊急展開軍」御用という旗を立てただけのことで、1,500人の兵力がいつもまとまってどこかにいて出動を待っているということではない。この軍が実際に紛争に投入された話はまだ聞いたことがない。
なお今回首脳会議では、この集団緊急展開軍の装備を近代化することが合意された。タジキスタンに配備されているロシア軍の第201師団の装備近代化が中心となるのだろう(これまでの装備はタジキスタン軍に無償で譲渡される。この装備は1979年ソ連がアフガニスタンに侵入して以来約10年続いたアフガン戦争で用いられたものである)。

★今回首脳会議で設けられた「平和維持軍」
今回ドシャンベでの首脳会議は、「集団安全保障条約機構(CSTO)の平和維持軍」というものを創設する文書に署名した。これは以前から話があったものだが、昨年6月ミンスクでの首脳会議では署名ができなかったものである。
ボルジュジャCSTO事務局長(ロシア人)は事後の記者会見で、「CSTOの平和維持軍は、世界のどこでも国連の承認があれば行ける。CSTO域内なら国連の承認なしにでも展開できる」と述べた由。

★「緊急事態委員会」設立
今回、CSTOには緊急事態委員会が作られ(国連の安全保障理事会のようなものだ)、危機の場合には会合して加盟国への軍事援助を決定することが、今回文書としてまとまり署名がされた。これまでは年1回の首脳会議の間は議長国が緊急事態に対処することになっていただけなのが、より組織化されたことになる。
アフガニスタンでタリバン勢力、ウズベキスタン解放戦線の勢力が復活していることに対し、国境を接するタジキスタン、ウズベキスタン(トルクメニスタンもそうだが、CSTO加盟国ではない)は懸念を強めているが、今回合意によって彼らはCSTO軍(実体はロシア軍)の支援を確実に期待できることになった。
筆者は以前から、アフガニスタン情勢が中央アジア諸国に与えている脅威は国連安全保障理事会の場で話し合い、必要な措置が取られるべきだと思っていたのだが、これでもう世界がこの件で中央アジアを助ける必要もなくなった。

3.「集団安全保障条約機構」事務局と上海協力会議事務局間の協力協定
★今回もうひとつ注目されるのは、「集団安全保障条約機構(CSTO)」事務局と上海協力機構事務局の間の協力協定が署名されたことだ。安全保障面、麻薬取り締まり等の面で双方の協力を促進するとある。

★CSTOと上海協力機構(SCO)が協力するというのは、実質的にはCSTOと中国が協力するということで、より端的に言えば中国・ロシア同盟につながる話だ。アメリカに何とか対抗したいロシアは中国を自分の方に引き込みたくて、今年8月SCOがロシアで共同軍事演習をした時にも、これをCSTOとの共同軍事演習にしたがったのだが、どうも中国に断られたらしい。
ロシアに比べて米国に対する経済依存度がはるかに高い中国は、めったなことでは米国を刺激したくない。今回のCSTOとSCOの間の協力協定も、双方の事務局間の協力という低レベルのものにとどめ、首脳は署名していない。
小金を貯めたロシアが中央アジアでの政治的影響力をじわじわと復活させている中で、中国はこうして及び腰だから、中央アジアでだんだん浮き上がって見えてきた。人種的・歴史的には中国の方が中央アジアに近いのだが、この150年ロシア語圏にされてしまった中央アジアでは中国はもともと文化的に異質な存在なのだ。CSTOに入っていない中国は、ロシアの兵器を「割引価格」で購入することもできない。
だが中国は、それで構わない。中国にとっては新疆地方の西方が安定していることが中央アジアについての最大の目標であり、ここが米国の影響力下にあるよりはロシアの下にあった方がむしろ望ましいからだ。

と書いたところで今日のニュースを見たら、チベットのダライ・ラマがワシントンで大歓迎を受けている。ブッシュ大統領が歓迎式に出席し、ダライ・ラマ(インドに亡命中)のチベットへの帰還を認めるよう中国に呼びかけている。これが凶と出るか吉と出るか。折りしも中国では最大のイベント、共産党大会が開催中だ。微妙なときだ。
凶と出るというのは、中国が面子をつぶされたと思って、ロシアとの提携を強め、キルギスに駐留している米空軍の追い出しにかかったりするようなこと、吉と出るというのは、ダライ・ラマの対中発言が最近柔軟化していてチベットへの帰還の条件を整備しているように見えるので、ひょっとすると中国がダライ・ラマのチベット帰還を認め、米中関係における好材料としてしまうことを意味する。どうなるでしょうネ。

コメント

投稿者: ひろし | 2007年10月24日 02:28

はじめまして。
SCOにおける中国の目的は中央アジアの資源を確保することで
CSTOにおけるロシアの目的はNATO軍等に対する軍事力(安保面)を強化することで
その2つの機関が協力することができれば
アジアの勢力図がかなり決定的になってしまうと思います。
そのような中で日本は「アジア」から取り残されてはいないでしょうか。
心配です。

(河東より:
中国はエネルギー資源の他に、中央アジアにおける政治的安定の確保も主要な目的においていると思います。新疆地方の安定を確保するためです。
ブログに書きましたとおり、中国は米国を過度に刺激するようなことは避けようとしており、ユーラシア東部におけるロシア、集団安全保障条約機構との関係も抑え気味に運営していると思います。
他方、ダライラマの訪米招待のように、米国が中国の神経を逆撫でする場合には、中国が一種の報復としてロシアとの関係を一歩進めてみせることは十分あるでしょう。
しかし経済発展を至上命題とする中国は、米国との関係を決定的に悪化させるようなことは最後まで避けようとすると思います。

日本の対中央アジア外交は、これまで通り積極的に進めていくべきです。
私がもっと心配しているのは、北東アジアでも日本は置いてけぼりを食いつつあるということです。米国は、六者協議を発展させて北東アジアの安全保障を扱う恒常的メカニズムにする可能性を議論したがっていますが、日本がこれに主体的に乗り、むしろ自分として望ましいアイデアを示すようなことをしないと、日本は他国が決めたことを押し付けられることになると思います。
最近の米国人の話をきくと、ジャパン・パシングなどとうに通り越してジャパン・ナシングの段階に入っています。そしてこれは、米国のせいだけではない。日米同盟から得られる利益は何なのかということを、米国に印象づけることができていない日本の責任でもあると思います。)

投稿者: ひろし | 2007年10月27日 01:18

早速のお返事ありがとうございます。
ご意見を伺えて嬉しい限りです。
私はこの夏「日露学生フォーラム」
に参加しました。
ロシアについて興味・関心を抱いて
勉強しています。

なるほど、これからは北東アジアにおける
具体的な案が求められるようになってくるのですね。
そのためにはやはり日露間で平和条約締結が
不可欠になってくると考えています。
それでこそ日・露・中の三カ国で
良いバランスがとれるのではないか、
と考えるのは浅はかでしょうか。

(河東より:
それはその通りですが、領土問題が解決しないと平和条約は結べません。領土問題解決の動きはしばらく止まっていますが、ロシアの大統領選が終わったらまた前向きに始めてほしいものです。なお北東アジアではロシアもさることながら、現代の大国米中の間で日本がどう身を処するかという話が重要なのです。ここでロシアを対抗要素として使おうと考える人もいるのですが、民主主義国日本はそのように複雑な外交を行う体制にはないし、ロシアも日本に軸足を置こうとはしないでしょう。)

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