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世界はこう変わる

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2013年12月26日

ロシアがウクライナを組み敷いたのか、ウクライナがロシアをだましたのか

11月末、EUとの「東方パートナーシップ首脳会議」で、ウクライナがEUとの連合協約(加盟ほどではないが、貿易、人的交流を大幅に自由化、規格・規制も統一化するもの)に署名しなかったことに対し、首都キエフでは政府批判集会が続いた。これは当初、学生等による自発的なものであったのが、11月29日には警察が実力行使で弾圧、その後野党が前面に出て(集会参加者に日当を支給している可能性あり)、政府総辞職と大統領選の前倒し(本来は2015年)を求めるに至ったものである。しかし野党が出した政府不信任案は、12月2日の国会で否決された。
12月17日にはヤヌコヴィチ大統領がモスクワを訪問、プーチン大統領との間で、①ウクライナの債務150億ドルの肩代わり、②ロシアの天然ガス輸出価格を千立米当たり400ドルから268,50ドルに値下げ、の合意を勝ち取った。そしてロシアがウクライナに求めてきた、関税同盟への加盟については言及がなかったのである。つまり、表面上はロシアがウクライナを組み敷いたことになるが、気が付いたらウクライナがロシアのポケットの中をすっかりさらっていた、という構図なのである。

これにより、キエフの情勢はクリスマスに向けて鎮静した。今回の「ウクライナ騒ぎ」(破局一歩手前まで情勢を先鋭化させてはロシア、あるいはEUから譲歩を勝ち取るのは、ウクライナの十八番である)について、ここらあたりでまとめておきたい。

むしられたのは、むしろロシア

今回のウクライナ騒ぎは、2004年のオレンジ革命のように、民主主義、人権をめぐるものではなく、成長率ゼロ、短期債務だけでも600億ドルを超える中で外貨準備は200億ドル強という窮状下、ロシア、EUを競り合わせることで、援助をいずれかから絞り出そうとするウクライナ得意の瀬戸際ゲームであり、ウクライナの勝利に終わったと言える。プーチンは、ウクライナを自陣営に引き留めておくため(「2015年までにユーラシア経済連合を作る」という彼の悲願実現のためには、ウクライナは最重要)、ウクライナの債務買い取りと天然ガス輸出価格の削減というコストを支払ったが、ユーラシア経済連合加盟への前段階としての関税同盟(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン)にウクライナの加盟を得ることがなかったからである。

米国、EU、中国ともウクライナから距離
   ロシアもEUとの対決は望まない

 ・11月29日、警察がキエフの集会を蹴散らした後は、ケリー国務長官をはじめ欧米から厳しい非難声明が出されたが、米国は12月10日ヌランド国務次官補をウクライナに送ったのみ、EUはアシュトン上級代表を同じく10日ウクライナに送ったのみで、EU主要国は独自の動きを見せていない(ドイツは組閣中であったが)。ロシアのタス通信は、EUの中でウクライナとの連合協約を熱心に推進してきたのは、スウェーデン、ポーランド、リトアニア程度であると報道している 。

 ・米国国内では、根深い反ロ主義に基づく積極的介入論も発表され、マケイン上院議員はキエフの反政府デモで行進しているが、オバマ政権は口先だけの介入に止めている。本件でロシアとの対立要因を増やしたくない様子も見える。今回のウクライナ情勢は、民主主義に関わるものと言うより経済問題に関わるものであること、ウクライナ政府の不誠実で腐敗した性格が知れ渡っていることも、その背景にある。
 (大体、ウクライナ自身が親欧の西半分と親露の東半分に民族・歴史・文化的背景が分かれていて、今回の反政府集会についての世論調査は支持が49%、反対が45%と見事に分裂しているのである )

 ・さらに面白いことには、これまでカネにあかせてウクライナに入り込んでいた中国が、今回は模様眺めに出たことである。EUとロシアの間の綱引きが高潮していた12月5日、ヤヌコヴィチは以前から予定していた訪中を行ったが、ここではヤヌコヴィチは新たな資金協力を得ていない(但し商業案件で80億ドルが流入すると称している)。中国としては、このタイミングでの対ウクライナ支援は、ロシアへのあからさまな挑発になることを見てとって、抑制したのであろう。
 
ロシアは、ウクライナをめぐってEUと無用の対立を避けたがっている。13日、プーチン大統領は、「ロシアがウクライナと関税同盟を結ぶときに、EUがからんでいても構わない(これまでは、EU産品がウクライナを通じて無関税でロシアに流入することに絶対反対を表明していた)」と述べ、シュヴァーロフ第一副首相は、「EUには、ユーラシア経済連合結成に反対して欲しくない」と述べている 。プーチン大統領は、「ユーラシア経済連合」設立をEUに邪魔して欲しくないのである。

・これで、IMFが2007年に決定した150億ドルの融資支払いを再開してくれるかどうかが、当面のポイントとなろう。

「米国は頼りにならない」?
 最近、日本国内では、中国の防空識別圏設定等をめぐり、「米国は頼りにならない」という声が澎湃として巻き起こっており、今回のウクライナに対する米国の抑制した対応も、こうした議論に油を注ぐことになるだろう。
 しかしウクライナについては、上記の事情があることを銘記しておく必要がある。「米国は頼りにならない」と言ってキレルのは、「これでは寒さを防げない」と叫んで、寒中でなけなしの外套を脱ぎ捨てるようなものである。

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