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世界はこう変わる

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2007年10月27日

ロシア情勢メモ 07年10月


(あまり報道されていない、しかし重要で面白いと思うニュースを中心に、速報性は急がずに書いています)

#7 省益だけ見て、改革をつぶす(ロシアの)官僚たち
○プーチン大統領は、ロシアは石油だけでなく製造業も振興しなければいけないとして、IT、宇宙、原子力、ナノテク、航空分野を重視するのだと言明している。全く正論だ。レイマンIT通信相は6月の投資会合で、「ロシアからのIT関連の輸出を、06年の15億ドルから2010年には125億ドルにする」と声明している。
○ところが、「IT振興策」は関係各省の数だけ計画があり(日本でも同じようなことが起こる。何かカッコいい政策がぶち上げられると、それにあやかって予算を取り、その枠内で出張費やその他の予算を取ってしまおうと考える各省が、美しいプロジェクトの数々を打ち上げるのだ)、税優遇措置も決まらない。法律を作ろうとすると、国会で修正が加えられ、一貫性のない法律になってしまう。
○たとえばその新法では、製品の70%以上を輸出し、50人以上を雇用していれば優遇税率適用を申請できることになっている。しかしこの法律は07年1月に発効したのに、優遇税率適用の申請を受けるべき役所がまだできていない。
輸出した場合、付加価値税の還付も受けにくくなっている。財務省が、税率を18%から13%に下げることに反対しているからだ。「プーチンが何を言おうが、財務省が税変更に反対してつぶす」というのが、役人界での常識だそうで。日本でもよく聞く話。


#6 ルーズベルトの3選にあやかるプーチン大統領
○今年はルーズベルト大統領の生誕125周年だそうで、ロシアの識者たちはそのことを既に年初から宣伝に使っている。年初にはエリート大学の国際関係大学でルーズベルトについてのシンポがあったそうで、そこにはプーチン大統領のアドバイザーを自称する反体制くずれ、パブロフスキー、そしてこれまで当局の国会対策を一手に担ってきた(しかしズプコフ首相人事ではつんぼ桟敷に置かれた)まだ若いスルコフ大統領府副長官が出席、口々にプーチンをルーズベルトになぞらえ、プーチン3選をアジったのだそうだ。
○そして10月14日、ロシアのNHKに相当するテレビ局RTRはルーズベルトの90分ドキュメンタリーを放映、「彼は米国で3回選ばれた唯一の大統領となった。国民はこの重要なときに、彼なら間違いをしないだろうと信じた」とのアナウンスをした由。
こうなってくると、プーチン三選への動きも佳境に入ってきたようで。これからインフレになるという難しい時に、自分のボスをそんな危地にむざむざ向かわせていいんですか? アドバイザーの皆さん。みんなでコケてしまいますよ。

#5 ロシアも「統一」の一党支配へ?ーーープーチンを候補者リストのトップに据えた「統一」、支持率うなぎのぼり
10月15日報道の全ロ世論研究センター調査によれば、12月の総選挙では有権者の54%が統一に投票すると答えており、これは9月末から支持率が7%上がったことを意味している(10月25日には68%に達している)。
○問題は、共産党に投票するとしている者が6%、自民党が5%、公正党が3%しかいないことだ。票全体の7%以上を取れない政党には1議席も与えられない決まりになっているので、今の勢いでは「統一」がかつての共産党のように(あるいは今年8月カザフスタンでの総選挙のように)一党支配を樹立しかねない。
○もっとも別の項目で書いたように、食品価格の上昇が顕著であり、これが当局による総選挙シナリオを大幅に狂わせる事態になるかもしれない。1993年12月の総選挙では、与党の圧勝が予想されていたのが、生活難への批判票がリジノフスキーの自民党に集中したのだ。
○9月末、モスクワ社会予測センターによる全国調査では、国民が自分たちの近辺で最も問題だと考えているのは、貧富の格差が50%、当局と市民の間が48%、ロシア人と非ロシア人の間が24,5%、キリスト教と回教徒の間の関係が16%だった。当局は盛んに西側に対して強がって見せることで票を稼ごうとしているが、その足元でインフレに火がつき国民の生活が苦しくなったのでは、どうしようもない。


#4 これまでの改革支持層が「統一」支持へシフト
10月VTsIOMの世論調査によれば、民主政党支持層は全体の13%いることはいるのだが、そのうち70%は与党「統一」に投票するつもりでおり、改革派の右派勢力同盟へは9%、同じくヤブロコへは7%しか投票する気がない。つまり改革派、民主派とよばれる人たちは、「花よりダンゴ」ということで、美しい民主主義とか市場経済という言葉より実際の生活をよくしてくれた「統一」に傾斜している。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の中の「大審問官」の章、「人民は自由などよりパンを求めているのだ」という大審問官にキリストが黙ってキスをする場面がある。今のロシアはそういうことだ。それはロシアだけではない。日本でもアメリカでもそうなのだ。

#3 マンガなみ―――ロンドンの高級ブティックでロシアの豪商達が借金の取立て争い
10月5日、ロンドンで面白い事件が起きた。ナイツブリッジ地区のエルメスの店で、ベレゾフスキーがかつての仲間アブラモヴィチをやっと見つける。後者は2005年、シブネフチ、ルスアル、ORTの株をパタルカツシヴィリと共に20億ドルで手放したが、これは「アブラモヴィチがプーチンの意を受けてベレゾフスキーに強制したからで、本当の市場価値は100億ドルあったのだ」として、ベレゾフスキーはロンドンの裁判所に訴えたものらしく、そのことを証明する書類をもう半年間も持ちまわって、同じロンドンに住んでいるアブラモヴィチに渡そうとチャンスを狙っていた。
で、そのアブラモヴィチがヘルメスの店にいるのを見つけ、その護衛が止めようとするのもふりきって、ベレゾフスキーはアブラモヴィチに歩み寄り、裁判所の書類を渡そうとしたのだ。アブラモヴィチが後ろずさりしたので、書類は両者の間の床にむなしく落ちてしまったという。
なんとなく、芝居じみた光景。

#2 中ロ貿易は今年初めてロシアの赤字
2007年、ロシアは90年代初期以来初めて、対中貿易で赤字を記録している。1~8月双方向貿易は昨年同期より41%増加したが、輸入が81%も増えたため、40億ドルの赤字になっている。これを見たロシア国内では、中国製品に対する保護主義の声が高まっているらしい。

#1 ズプコフ首相就任についての追加情報
★ズプコフ首相就任について種々の分析はあるが、この中で実力者のセーチン大統領府副長官がどう動いたかを報じたものはない。西側の新聞によれば、彼は自分の利権を守るためにプーチン大統領の居残りを策していることになっているのだが、本当にそうなのか? また腐敗は大統領府にまで及んでいて、それは今後もロシアの内政に微妙な隠微な影を投げかけて行くのかどうか。
今回の人事では、ズプコフ首相を初め、諜報機関出身ではない者達が多数登用されている。新しい「プーチン・チルドレン」の登場である。彼らが、利権につかってしまった古い「プーチン・チルドレン」と争いを起こす可能性があることを指摘する記事もモスクワでは見られる。

★10月1日「統一」党の大会でプーチン大統領は、「ロシアが本当に偉大な国であることを示すときがやってきた。ロシアが自分の市民を誇りに思い、隣国から尊敬され、人間としての威厳と権利がなによりも尊重されている国であることを。このためにこそ、我々は共に努力し、成功を収め、時には敵意にも出会ってきたのだ」と述べた。これこそ、ロシアの市民が今一番言って欲しいことだろう。シビレル。
もっとも、8月の世論調査では、国民の46%はプーチン大統領が権力の座に残ろうが残るまいが関心ないそうなのですが。(但し同じく46%が大いに関心というか心配しており、30%の市民は「プーチンが去ればロシアはまた悪くなる」と考え、37%が「変わらないだろう」と考えている)

★自由民主党のジリノフスキー党首は、「プーチン大統領がリストのトップになっていなかったら、『統一』は25%くらいの得票しかあげられないだろう」と述べている。またプーチン大統領が「統一」候補になったために、与党系である公正党や自民党は下手をすると「プーチンに弓を引いた政党」とされ、蹴落とされてしまうリスクがでてきた。

★9月25日、プーチン大統領の命で、内務省の街頭運動取締り担当の局長が「定期異動」ということで更迭された。しかし同日に、サンクト・ペテルブルク等地方政府の同種担当者が更迭されたところを見ると、これは政治的意味を持っているだろう。まさか3月に野党デモが暴力的に弾圧されたのが西側で批判されたことに応じたものではないだろうが。ま、12月の総選挙、来年3月の大統領選挙を念頭において、新しい人物が内務省の局長になるのでしょう。自分の子飼いを地方に任命して。

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