Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2007年10月 7日

中央アジア情勢メモ(07,9~)


水源地帯の水不足
今年はタジキスタン、キルギスのダムで水が少ないらしい。両者は中央アジア全体の水源であり、綿花生産にも必要なのだが、綿花はもう収穫が進んでいるので、当面は冬の電力供給が問題になるだろう。タジキスタン、キルギスは冬寒いときに十分な電力を確保することができず、ウズベキスタン、カザフスタンなどからの天然ガス・電力供給を必要とすることになるだろう。後者は前者へのこれまでの「貸し」を清算するべく(電力・ガス料金が払われていないことがある)、前2者を散々じらせ、停電も頻繁に起こるだろう。これまでも繰り返されてきた構図だ。

ウズベキスタン
★ウズベキスタンでは大統領選挙期日が公表され(12月23日ということだから、クリスマスで誰もいなくなる欧米諸国の政府はろくな対応もできないだろう)、我こそはという感じで人権活動家たち5名ほどが名乗りをあげている。他方、実業家たちを結集した自由民主党は、(三選を認めていない現憲法などどこ吹く風で)カリモフ現大統領に出馬して欲しいという切なる願いを表明した。この党は2003年頃から、当局の肝いりで作られた政党である。
もっとも、選挙戦が始まったわけでもなく、中央選挙委員会は建物も定まらず、必要な資料も出せない状態の由。それに大統領選挙に正式に出馬するための条件はやたら厳しく、全国で70万名の署名、それも8の州・市から万遍なく集めないと駄目なのだ。で、その70万の署名が本物かどうか審査すると1年以上かかってしまうのだそうで、雰囲気はあまり盛り上がっていないようだ。

カザフスタン
★カザフスタンの格付け引き下げーー対外債務の膨張が原因
○10月8日、Standard & Poors社は、カザフスタンの国家としての格付けをBBBからBBBマイナスに下げた(FitchはBBBを維持)。銀行の対外借り入れが多すぎる中で、サブプライム問題の影響を受けていることが原因だ。
○報道によれば、カザフ中銀は8月から109億ドル相当のテンゲを市場に供給、これはマネタリーベースの4分の3相当だそうだ。これも、カザフスタンにおけるパンをはじめとしたインフレ傾向(下記参照)の大きな原因だろう。
外貨準備も50億ドル減って184億ドルになり、7~8月には一部銀行への取り付けもあって個人預金の10分の1、2億ドル強が引き出された由。

★パン値上げをめぐる騒ぎ
10月1日、パンの卸売り価格が上がり、小売価格は2倍になった。
9月11日閣議の場で農相が、小麦買い付け価格を1トン、200ドルにすると発言して以来、パンの生産が急減し、9月末にはパン屋の店先から消えていた由(値上げを待っていたのだ)。問題は、値上げ後もパンの供給は増えていないことである。
野党(8月の議会選挙では与党しか議席を取れなかったので、究極の野党だ)は、内閣に退陣要求をつきつけているが、議席を持っていないのではどうしようもない。


キルギス
10月21日に新憲法案が国民投票にかけられる。テキストが発表されてからわずか1ヶ月だ。承認されればすぐ総選挙になるものと予想されている。経済状態が悪く、政党も確立していない中で諸利権の渦巻いているキルギスは、また集会やデモの相次ぐ不安定な情勢になるかもしれない。

○そもそもは2003年、まだ元気だったアカーエフ大統領が憲法を改正し、議会を二院制から一院制にするとともに議席を75と大幅に減らしたことが事態の根源にあるようだ。議席が減ったために2005年3月の総選挙では不正がひどく、発表された結果に不満な者たちがデモや集会を重ね、「チューリップ革命」と称してアカーエフ大統領を座から追ってしまったのだ。

○その後も新任のバキーエフ大統領と議会の間の権力争いは絶えず、2006年11月から12月にかけては、大統領の権限を大幅に削った新憲法をバキーエフは一時のまされた。その後、ライバルのクーロフ首相をうまく放逐して権力を回復したバキーエフ大統領は、憲法裁判所に11月、12月の新憲法を否認させ、今度は大統領の権限を強化した新憲法案を国民投票にかけるのだ。
これによれば首相も、国防・治安・諜報・外交担当大臣も大統領が指名する。大統領は議会を解散する権限を有するが、議会が大統領を弾劾する場合には80%の賛成票が必要なのだそうだ。


タジキスタン
★タジキスタンというかラフモン大統領の対ロ姿勢が冷たくなった、との観測がある。この国は情報が少なくて、情報が出てくるたびに対ロ姿勢が右に行ったり左に行ったりしているので、今回も報道を信用することはできないのだが(というか、中央アジアの連中はオリエント的な荒っぽい交渉の仕方をするので、彼らが相手の悪口を大声で言っても、額面通りに取ることはできないということ)、ラフモン大統領は最近、ロシアに対する物言いが冷たくなっているのだそうだ。3月には自分自身の名前をロシア的なラフモーノフから本来のペルシャ的なラフモンに改名したし、ロシア風の名をつけた児童の入学を制限したりしている(タジキスタンにかつて50万人はいたロシア人も、今では4~5万人しかいない由)。施政方針演説でも、米国、中国、トルコ、イラン、パキスタンと関係を増進したいと大いに述べた割にはロシアへの言及がおざなりだったと言う。極めつけは、ラフモン大統領がご執心の「ラグーン・ダム」(高さ約300メートルもの水力発電所)建設をいっこうに進めなかったとして、ロシアの大実業家デリパスカ・ルスアル社長をこの件から「追放」したことである。

★確かにタジキスタンは、米国がアフガニスタンと結ぶ橋を完成してくれたばかりだし、中国は6億ドルもの融資を約束してトンネルなどのインフラを作ってくれている。隣の大国ウズベキスタンが親露路線をとっている現在、ここと対立しがちなタジキスタンが親米、親中の政策をとっても不思議ではない。
しかしタジキスタンは10月初めドシャンベで、ロシア主導の集団安全保障機構の首脳会議を主宰している。ロシアと決定的に縁を切る気などありはしないのだろう。それにこの国は、実はロシアに経済的にも大きく依存している。報道では、タジキスタンのGDPは年間26億ドル程度、国家歳出は4億ドル程度だが、ロシアに出稼ぎに行っているタジク人は毎年10億ドル相当を送金してくる由。これはインフレ要因にもなっていて、この数ヶ月で小麦価格は倍増し、一袋35~38ドルになった由。平均賃金が40ドルだから、これは大変なことだ。

★この国で興味深いことは、ラフモン大統領への個人崇拝が進行しているのではないかということだ。タジキスタンは90年代の大半を通して内戦状態にあり、そのせいかラフモノフ大統領と部下は戦友感情があったのか、相互の接し方が権威主義的ではなかった。それは、僕がタジキスタンを見ていて気持ちのよかった点である。しかし昨年11月大統領に三選されてからのラフモン大統領は、野党勢力を一掃したこともあって、個人崇拝的色彩を容認している感がある。地方の官僚には彼に「大統領陛下」と呼びかける者も増えてきたそうだし、最近は彼自身が著者となっている「タジク史」全6巻の学習が呼びかけられている。タジク人は「アーリア人の子孫だ」というのがポイントとなっている(タジク人はイラン系なので、嘘ではない)。

トルクメニスタン
★10月はじめ、ベルディムハメドフ大統領は内務省で突然会議を行い、4月に任命したばかりのアンナクルバノフ内相を解任した。大統領の言によれば「4月に縁故人事をやってはいけないと言っておいたのにそれを破った」ということと、内務省職員がラマダン最終日に行われる「大統領による恩赦」の対象者選考で賄賂を取ったため。同時にアシルムハメドフ国家保安大臣(これも4月に任命したばかり)も健康を理由に自ら辞任した。
これがベルディムハメドフ大統領の権力基盤が不安定であることを示すのか、それとも磐石でポストと利権のたらい回しをできるほどなのかについては、わからない。今回は後者である感じがする。トルクメニスタンではニヤゾフ前大統領の時代から、新任大臣は最初の6ヶ月は「試用期間」とされていて、その間は解任しても別に任命責任など問われはしない(その後だってそうだが)。

★9月27日には、米国の中央海軍(中近東の第5艦隊)司令官Kevin Cosgriffがトルクメニスタンを訪問している。トルクメニスタンの国防省だけでなく、なんと石油ガス省の官僚とも会談している。
トルクメニスタンは内陸国だがカスピ海という大きな、しかも海底の境界線が未だ確立していない「海」を持っているから、海軍も必要なのだ。
しかし、イラン南岸に艦船を浮かべている第5艦隊の長官がイラン北方のトルクメニスタンを今の時期に訪問するというのは、それはそれで興味深いことだ。イランはさぞ圧力を感じていることだろう。因みにトルクメニスタンはイランに天然ガスを輸出、イランはこれを国内で消費して、自国で産出した天然ガスは輸出に向けている。

★ベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領の訪米
ベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領は9月25日に国連総会で演説し、これまでとかく閉鎖的と言われてきた同国を外部に「開放する」と言明した。
彼はニューヨークでライス国務長官、サアカシヴィリ・グルジア大統領、アダムクス・リトアニア大統領、メジチ・クロアチア大統領と会談したほか、米国経済界とのコンタクトに重点を置き証券取引所を視察、財界人を集めてのスピーチを行った。同大統領はトルクメニスタンへの投資を大いに慫慂したが、優遇策等具体的な話はしなかった。
一連の話の中では、最近ロシア、中国等へ大量の天然ガス供給約束を連発していることについて、「トルクメニスタンに天然ガスは十分にあるので、これらプロジェクトの実行を保証する」と述べたことが面白い。こうしておいて、ロシア、中国、パキスタンなどを競り合わせようとしているのかもしれない。

★9月23,24日にかけて、アシハバードなどの市場で放火が相次いだ。報道によれば、トルクメニスタンの市場はDurda Karovという男の支配下にあったが、最近の政権交代で利権の明け渡しを求められたため、抵抗の意味で放火の挙に出たのかもしれない由。彼は「力の機関」(諜報機関、内務省のうちどちらかだろう)とも近いので、捜査は難航しているそうだ。

アゼルバイジャン
★アゼルバイジャンは2008年11月に大統領選挙の予定。

上海協力機構
10月初め、タジキスタンのドシャンベで集団安全保障条約機構(ロシア、ベラルーシ、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンがメンバー)の首脳会議が開かれたが、5日には上海協力機構との間で、「事務局間の相互理解についての覚書」なるものが署名された。
8月にウラル山中で上海協力機構の共同軍事演習が行われた際、ロシアはこれを上海協力機構との共同軍事演習にしたかったのだが(米国を過度に刺激することを避けたい中国の抵抗でか)そうならず、今回は結局このような中途半端な形で取りあえずの前進をはかったのだろう。

集団安全保障条約機構首脳会議
この会議はドシャンベで10月6日に行われたのだが、それに先立つ2日、ボルジュジャ事務総長はモスクワで、この機構に平和維持軍を設置したいと発言した。これは展開を旧ソ連領のみに限定し、当面は南コーカサス地方、特にグルジアとの紛争地域のアプハジア、オセチアに配備したい(但し当事者の了解を得て)、と述べている。
彼は同様の発言を繰り返しているようで、そのことが「集団安全保障条約機構」の「域外」への平和維持軍派遣と報道されているが、アプハジア、南オセチアはいずれもグルジア領内にあり、既にロシア軍が「平和維持軍」として配備されているので(グルジア側の要求で近く撤退予定)、「域外」ということにはならない。「域外」に出てくるのなら、むしろアフガニスタン北部に駐留して中央アジアの安全保障に従事してもらいたいところだ。
また彼は、トルクメニスタンがこの機構に入ることに対して切なる希望の念を表明してもいる。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/266