キプロスの銀行危機はユーロを破滅させるか?
キプロスで金融危機が起き、それが世界株式市場やユーロを乱高下させている。GDPが180億ドルのキプロスが何で世界を振り回すのかと言うと、これはロシアもからんで非常に面白い国際政治・経済のケース・スタディーになる。落とし所としては、ロシアもEUも共に負担してキプロスに救済融資をすることになるのだろうが(埋蔵量が数千億立米あると言う、キプロス沖の天然ガス田開発が抵当に入る)。
キプロスで何で今頃銀行危機が起きたかと言うと、それはギリシャ危機のあおりなのだそうだ。キプロスの銀行がギリシャ国債を大量に保有していたが、ギリシャ救済でその大きな部分が価値を失い、その分キプロスの銀行の財務が悪化したというのである。
キプロスの銀行くらい簡単に救済できそうなものだが、これがまたGDPの8倍に相当する資産を抱え、預金は700億ドルに上る(GDPは180億ドル)という不相応な大きさなのだ。そしてこの預金の半分はロシア企業のものだろうと推定されている(その種の情報は公表されない)。
なぜロシア企業かと言うと、キプロスというのはロシア経済にしっかり組み込まれ、ロシア経済の不可欠な装置のようなものになってしまっているからだ。どういうことかと言うと、ロシアの企業家は中小企業に至るまで、ビジネス関係の法制や所有権の保証が十分でないロシアより、キプロスに本社を登録し、キプロスで資金のやりとりをすることが多いのだ。これは脱税だとか、マネー・ロンダリングだとか言われるが、やむに已まれずキプロスに本拠を置いている中小企業も多い。
言ってみれば、ロシアの企業にとっては自分の銀行システムがおかしくなってきたようなもので、キプロスの銀行危機が表面化した昨年6月以降、既に25億ドルもの融資をキプロスに行っている。ロシア国内では、「寡占資本家のマネロンを助けるためのキプロス救済だ」と少し非難されたが。
EUにしてみれば(キプロスはEU加盟国)、キプロス救済は金額的には簡単だが、その金額はキプロスのGDPにほぼ等しく、それだけの比率で(つまり甘さで)加盟国を救済したことはこれまでにない。しかも融資をしたところで、それだけの借金をキプロスが返せるあてがない。キプロスの返済額を減らすために、EU諸国がキプロスへの債権の一部を放棄する、またはキプロス国民の預金の一部を「税」として没収する(今やろうとしていることだ)ようなことをしないと、IMFも協調融資をしてくれない。
しかし預金の一部を没収するのだったら、ロシア人の預金の一部も没収するのか? 没収できるのか? ロシア人のカネには手を付けず、たとえばドイツに負担を求めた場合(EUの中ではどうせ、ドイツが一番負担することになるだろう)、ドイツ国民はおいそれと認めるだろうか? 「キプロスでマネロンをしている80名のロシア資本家を救済?」というのは、昨年6月ドイツのマスコミをにぎわせた見出しだ。しかもドイツは今年の秋、総選挙を控えている。メルケル首相もうかつなことはできない。
ということで、事態は手詰まり。だが今のところ、ユーロは暴落を始めていない。ロシアの株式市場、外為市場でもパニックは起きていない。落としどころが見えているのか?
それは、一つにはロシアも追加融資することで(30億ドルくらいなら、ロシアも簡単に出せるだろう)、EU、IMFも救済融資に踏み切り、キプロス国民も預金の一部封鎖(没収ではなく)くらいで勘弁してもらう、つまり関係者全部の痛み分けというものかもしれない。キプロス沖の地中海に眠るという、天然ガス開発権をこのどたばたに紛れてロシアの企業がかっさらっていくかもしれない。融資の抵当とか称して。
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