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世界はこう変わる

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2013年1月 2日

機上で聞いたロシア近況

(1月2日 末尾に追記)
年末、モスクワを経由してデンマークに行く機会があった。アエロフロートはこれまで何回も書いたが、もう西側の航空会社に遜色がない。定時出発、機内は清潔、機内食は平均をはるかに上回る。バイカル湖を通り過ぎたあたり、つまり旅程が半分を過ぎたあたりでアイスクリームを持ってくるのだが、これがまた絶妙のタイミングだった。機体はエアバス、トイレもきれいだ。ソ連の時代のトイレは、トイレット・ペーパーがごわごわで流せないため、使ったものを傍らの籠に捨てていた。それがすさまじい悪臭を放っていたものだ。

今は、乗務員も本当にあか抜けてきて、ロシア的な温かさと西側的な機能性をうまくブレンドしている。ソ連崩壊後10年程は、「私たちは後れた国で」という申し訳なさそうな,もの馴れない態度が目に付いたが、今はもうない。むしろ日本人乗客の方が相変わらず対ロシア優越感に凝り固まっていて、何かあるとすぐアエロフロートやロシア人の悪口を言っている。サービスの質ならば、たとえばアメリカなどロシアより下なのだが。

僕の隣席はロシアの若いビジネスマン。マッチョな感じで、ラフなかっこうをしているが、足がぶつかると日本語で「すみません」と言った。乗務員が飲み物は、と聞くと、「日本茶」と言う。話はしなかったが、多分、日本でソフト開発でもしている男なのだろう。こういう「ちゃんとした」若い世代が育っている。こういう世代、こういう職種のロシア人にとっては、保守的なプーチン政権は「平均余命で数えれば、プーチン政権は今回で終わり。再選なし。今の連中は財産を守るために政権にしがみついている」ということになる。

デンマーク人と話していると、ロシアに対する偏見が目に付く。「ヨーロッパに比べて永遠に後れた国」ということだ。つまりヨーロッパ人にとってのロシアは、明治以降の日本人にとっての中国に似ていて、同等のものとして認めたくない、いつも自分より後れていないと気が済まない、そういう存在なのだ。

デンマークからモスクワを経由して帰ったアエロフロートの機上、隣席はやはりロシアの青年だった。ヴォルガ河畔の大都市Aの医師で、まだ29歳。英国の学会で知り合った日本の医師のところへ遊びに行くのだそうだ。外見も、話してみても、廉潔で責任感の強い男だった。日本人女性が機上で気分が悪くなった時には、医師用カバンを持ってすぐ診察に飛び出ていった。

彼は大都市Aの医学大卒。たぶん医学教育の水準は、モスクワやサンクト・ペテルブルクでなくても高いのだろう。今は地元の大病院に勤めているが、「主任医師は部下を育ててくれるようなタイプではない。能力を伸ばすことができないと感じている」と言っていた。そして、ロンドンで見た英国の医療体制とロシアを冷静に比較し、ロシアの良い所もよく見ていた。西側では看護婦が医師に代わって行う診療が多いため、医師の数が少ない。ロシアの看護婦はそれだけの教育を受けていないので、医師がやることは増える。その代わり、医師の数は多いのだそうだ。

ロシアでは、モスクワから東、北に向かうにつれて、人間は廉潔、朴訥になると言われている。この青年医師もそうしたタイプで、正直で、社会を良くしたい、尽くしたいという気持ちを持っている。その彼がちらりと言った。「ソ連時代の方がロシアは強かったのでしょう? 暮らしも良かった。人々ももっと親切だった。だから今、プーチンがいいのでしょう?」 そして北方領土問題と尖閣問題の歴史を聞いてきた。

(追記)
今から30年も前には、アエロフロート国際線はイシューシン62型、IL-62の全盛期だった。アユのような優美な機体で、後部の窓際に二つずつジェット・エンジンがくくりつけられている。そのため空港での乗機時には、まず前部の客席をいっぱいにしておかないと、機体が後ろに傾いてしりもちをついてしまうのだった。このIL-62は西側の技術輸出制限のせいでエンジン出力が弱く、離陸の時は延々と滑走路を走っていく。この飛行機は実は自動車で、このまま陸上を走っていくつもりなのではないかと思わせた。

今のシェレメチェヴォ国際空港は、ソ連崩壊後やっと20年もして念願の新ターミナルが完成した。2年前できたばかりの頃は、閑散としていたが、今は西側の空港とまったく変わらない繁盛ぶり。アメリカのレストラン・チェーンのFridayも出店していて(モスクワ市内にもいくつかある)、そこでは赤白しましまのシャツを着て、サンタ・クロースの赤い帽子をかぶった若い店員たちが忙しく立ち働いている。むき出しの腕は刺青だらけ、牛乳瓶の底のように分厚いレンズの眼鏡をかけた男もいる。

その様はアメリカと変わらないのだが、彼らは努めて客を見ないようにしている。余計なことを頼まれて、仕事の邪魔になるからだ。僕は注文を取ってもらえずに、カウンターからキッチンを覗き見ると、壁には「各人目標」とか「顧客からの評価」とか「コンクール」などの紙が貼ってある。中味は見えなかったが、どうせいい加減なのだろう。

空港のSecurityをクリアしたところで、女性の係員が5名いて、そのうち2名が本格的な口げんかをしていた。本当に相手が嫌い、という風情。他の3名は黙っている。Securityは空いていて、口げんかもたっぷりできる。一人が言い負かされた時に運悪く、東洋系の若い男が心配そうな顔で入ってきた。言い負かされた女は、ゲートをくぐったその男の前にたちはだかって命令する。「はい、手を広げて!」 怖かったことだろう。

ロシア人というのはこういうふうに、職場で喧嘩することが多い。すぐ「あの人とは口をききたくない」という組み合わせが何組もできてしまうので、使いにくいことがある。でも昔と変わっていないですねえ、みなさん。西側的に洗練されたところがあるかと思えば、ソ連時代のDNAがすぐ戻ってきてしまうところもある。

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