文明の破断 メルマガ第84号から
24日に、「まぐまぐ」社から有料メルマガ「文明の万華鏡」第84号を発行しました。その冒頭記事のみご紹介します。
まえがき「文明の破断」
もう15年前のことになりますが、草思社から「意味が解体する世界へ」という随筆集を出版したことがあります。これはロシア、西欧、米国、ウズベキスタン、日本の社会の変化のもようを綴ったものなのですが、ここで言おうとしたことは、これまでの「近代」世界を支えてきたいくつかの基本的な価値観がその絶対の地位を失いつつありますよ、ということでした。 ">
――17世紀に確立した「国民国家」のいくつかは、民族・人種的な同一性を失い、多民族国家しつつある。自由や民主主義のような崇高な理念は、米国が武力、あるいは政権転覆工作で旧社会主義・中東諸国に上から押し付け、その結果は混乱と一層の困窮を呼んだばかりか、イラクでは拷問までしたことで(最近はファッショ的とも言えるトランプの登場もあります)、すっかりミソをつけられてしまった。また西欧諸国はかつてギリシャ・ローマ文明を自分の精神的故郷だと定め、学校でギリシャ語、ラテン語、そしてこの時期の古典を学習することで文化的なアイデンティティーを保ってきたのが、これが薄れた(大学進学のための必修でなくなった)ことで、ヨーロッパ人は浅薄で味気のない存在になった。――
ということが、この本には書いてあります。中国についてはこの頃、知らなかったものですから、その後勉強を重ね、現地に何度も行って確かめた結果を、「米中ロシア――虚像に怯えるな」という本(2013年、草思社)に盛り、同時に米国、ロシアについては新しい知見を盛り込みました。
ただ「意味が解体」したと言いながら、最近までは、産業革命が生み出した「近代」、そして近代が生み出した国家・統治形態――国民国家とか民主主義とか――の緩みを指摘し、「正調近代」に戻ることを呼びかけてきただけなのですが、最近ひしひしと感じるのは、何かが根本的に変わる、パラダイムががらりと変わる、それは文明の転換とかパラダイムの変化というような生易しいものではなく、本当に解体、「文明の破断」、いや「人類という種の破断」とも呼べる、破断の前後では相互理解も不可能なほどの変化、という直感です。あるいは、これから津波がやってきて、何から何まで攫って行ってしまうだろうという予感、「何をやってももう駄目だ」という一種の虚しさとでも言うか。
それはAIやロボットが普及して、人間は働かなくてもよくなる、というのもそうなのですが、一番気味が悪いのは、人間が人間でなくなってしまうことです。遺伝子工学がどんどん前に進み、人体の外見も中身も人間が変えることができるようになる社会というのは、医療には理想的でも、その他の面では予想しがたいものがあります。
人間のことを言う前にまず、IT、AI、ロボットが企業のあり方をどう変えていくか考えてみます。日本では100年、200年と続く企業や商店がよいものとされますが、インターネット、ロボット、AIは企業のあり方を大きく変えていくでしょう。日本では有名大学に入って大企業に就職するのが、「安定した人生」を獲得するためには至上の道だということになっていますが、大企業という自分の中に様々の機能を抱え込んだ企業形態は、これから多くの業種で不要、あるいは有害なものになってくるでしょう。日本の銀行では既に大幅なリストラが行われています。電機部門も、かつての本業から周辺分野に人材を放出する例が増えています。
面白いことに最近では、コンサルティングの大手でも人員の大幅カットが行われているようです。これまでのコンサルティングは、自己改革能力を失った大企業の注文で合理化策を提案し、企業がそれを使って社内のシガラミ、抵抗をつぶす――こういう風に使われてきました。ところがこの頃の経営での課題は、これまでの延長上で組織を如何に合理化、効率化するかという課題を飛び越え、どういう新しいものを開発、生産、販売し、それに応じて業容と組織をどう変えていくかという、テクノロジーの知識なしにはできないものになっています。理系の知識を欠く多くのコンサルタントは、過去の存在になってしまったのかもしれません。例えば富士フィルムがフィルムを捨ててデジタル技術、及び医療機器・機材生産の方向に大きく舵を切った時など、外部のコンサル企業は有効なアドバイスはできなかったことでしょう。
話しを人間に戻すと、これからは外見も能力も、両親、あるいは本人の注文次第に遺伝子を変えるということになるでしょう。世の中はアラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーブ、或いはアインシュタインやトランプ(?)、身長が3米もあるバスケット・ボール選手、そういったタイプばかり。「常時在コスプレ大会」の様相を呈することとなるでしょう。もう何が真実なのか、わからない世界です。
そして、人間の寿命がどこまでも伸びていく社会がどうなるか、それは想像の域を超えています。何歳になっても上司がいる会社、90歳になっても現役で、120歳以上の人達の年金を払わなければならない社会。あるいは80歳になっても子供ができて、それは長子の孫と同年齢であるような社会。頭が千々に乱れて、何が何だかわからなくなります。
一方、先進国ではこうしてどこまでも先へ先へと進んでいくのですが、先進国の周囲は19世紀以前の社会、国だらけです。彼らはやっと国民国家の原初形態を作り上げた段階にいて、その国家の力を使って対外拡張をはかろうとし、手近なところにある先進国にはテロや紛争をしかけるのです。日本はこうした国々にやられないように対抗手段を整えようとするうち、自らも19世紀以前の行動様式に堕してしまう、こういう矛盾にも直面しています。
今月の目次は次のとおりです。
天皇に人権はあるのか
――平成天皇譲位を前に――
「1989年」=ソ連圏の崩壊、30周年
ユダヤ資本を使いまくるトランプ
中国経済:そのうわべと中身
ロシア情勢液状化の兆しとプーチン早期院政の見通し
今月の随筆:天照大神は伊勢神宮に「疎開」したままなのか?
今月の随筆:日本の宇宙開発の使命は地球防衛で
今月の随筆:固体燃料ロケット「イプシロン」とINF
今月の随筆:日本の官僚のメルト・ダウン
今月の随筆:humbleであろうとする米国人
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