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世界はこう変わる

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2015年9月13日

世界史の意味 ユダヤ人という人たち5 近世英国経済発展におけるユダヤ人の役割

本題について述べる前にまず、中世以来のユダヤ金融史を書いてくるうち、新たに認識した事実を書いておきたい。それは次の通りである。

欧州、いや世界中、中世までは基本的に「金づまり」と言うか、カネの値段、つまり利子率が高い高利の時代だったということだ。ジャック・アタリは近著「ユダヤ人、世界と貨幣」で、英国での金利は年30-40%だったという数字を紹介している。
当時、地中海世界に「銀行」と称するものはできていたが、個人の預金を大量に受け入れてそれの10倍くらいのレバレージをかけて融資をするという、現在のタイプの銀行ではない。小金を持った個人の数が少ない上に、金を持つ者は銀行預金ではなく、高利貸や航海への出資の形で財産を保持していたからだ。従って当時の中世地中海で「銀行」Bancoと称するものの主要な機能は、両替だった。預金を集めて融資に回す現代の銀行モデルは、産業革命の結果中産階級が成立してからのものであろう。中世の世界は基本的に「金づまり」、デフレ気味の経済だったと言える。

だから、欧州経済の一大転機となったのは、新大陸の金銀が大量に流れ込み、金利を大きく低下させたことだ。17世紀の英国やフランスでは日用品の生産が質量とも増えているが、これは金利の低下で事業がやりやすくなったことによるだろう。これで小金を蓄積した地方の郷紳(ジェントリー)が小銀行を作って繊維工場建設などに融資したのが産業革命を実現した、とT.S.アシュトンは名著「産業革命」(岩波文庫)で言っている。

南米のインディオをほぼ皆殺しにし、奴隷労働で採取させた金銀が、欧州の産業革命の根底にあるのだ。そして1000万人に上るアフリカ黒人奴隷「貿易」から得た巨万の富も、その根底にある。18世紀末の英国経済は輸出主導の成長を遂げたが、輸出の30%を吸収していたのが北米の植民地である。つまり欧州、いや世界の近代文明は、南北の「新大陸」を搾取することによって生起した、と言える

そしてその過程では、ユダヤ人のさしたる関与は見られない。ユダヤの金融力は、産業革命が余剰の資金を生んで以降の話しである

欧州におけるユダヤ人の地位は、ローマ法王庁がユダヤ銀行家を重用していた("Jewish Bankers and the Holy See", Leon Poliakov, 1965)ことによって複雑なものとなる。カトリック教会は利子を取ることを信者に禁じていながら、自らの収入はユダヤ人に差配させ、利子を稼いでいたのである。欧州各国の王室や支配層にしてみると、法王庁御用を務めるユダヤ人にはそれなりに気を配らねばならないものの、地元教会への10分の1税を払わないため、地元教会にとっては目障りなものだっただろう。それに欧州各国の国王にしてみれば、法王やカトリック教会の存在自体、10分の1税とか称して地元の富、つまり国王の取り分を掠め取るものとして、目の上のたんこぶのような存在だっただろう。

 これらが、欧州各国で相次いだ「ユダヤ人追放」(追放と言っても、ユダヤ人の多くはカトリックに改宗して10分の1税を払うようになったのだがの背景にあろう。単なる人種差別ではない。

というわけで、今回は近世英国におけるユダヤ人の話しを続ける。因みにウィキペディアによれば、19世紀以来英国では反ユダヤ主義がなかったためにユダヤ人口が増え、現在30万人と欧州で2番目に多い(一番目はフランスの48万人)。王室・貴族でもユダヤ人と通婚している例がインターネットには記載されている。シェル、BPといった石油メジャー、あるいはセシル・ローズが南アフリカで始めたダイヤモンド・ビジネスにもユダヤ系資本の大きな参与があり、1868年首相になったディズレーリ(Disraeliの綴りが示す如く、「イスラエルの」という姓を持つ)も、ポルトガル出自のユダヤ人家庭に生まれ、12歳でキリスト教の洗礼を受けた人物である。彼はユダヤ人であることを政敵に時々攻撃されていたが、その返答がふるっている。「お前はどこかの馬の骨。俺の祖先はソロモンの神殿の僧侶」。立派なものだ。

話しを少し戻すと、英国でユダヤ資本家の名が大きな意味を持つのは、やはり19世紀のロスチャイルド以降である。インターネットによれば、「ロスチャイルド」を初めて名乗ったのは18世紀半ば、フランクフルトのユダヤ人金細工師の息子マイヤー・バウアーで、彼は店を金貸しに変え、その目印として赤い看板を掲げた。赤い看板、ドイツ語でロート・シルトRot Schildを自分の姓にして、後に英国に移住した後もRothschildを名乗った。当初は、フランクフルトの地元ヘッセンのウィリアム9世の信任を得ていた由。

その後一家は世界の金融の中心地アムステルダムに移住して金融業を営んでいたが、1798年になると当主ナタンは英国に移住してマンチェスターに繊維工場を作る。そしてその後ロンドンに移ってN.M.Rothschild&Sons銀行を作るのである。1803年にはデンマーク政府に2000万フランを融資したことで、全欧州での信用を得た。またマンチェスターの繊維工業に投資していたため、米国からの綿花輸入も手掛けており、その関係で1791年米国の中央銀行である「合衆国銀行」設立(短命で1811年には閉鎖)の際には出資したようである。この合衆国銀行は州銀行の反感をくらって二度もつぶされ、1913年やっと現在のFRB(連邦準備制度)として確立するのだが、それはまた次回、米国におけるユダヤ資本のところで述べることにする。

そのロスチャイルド銀行の力を飛躍的に高めたのは、1815年ナポレオンとの最後の死闘ワーテルローの戦いで、ロンドン市場が「英国敗北」の誤報で大暴落する中、「実は勝利」の情報を以前から準備しておいた情報伝達手段(伝書鳩)でいち早く入手。大暴落した公債を買い占めて大儲けして以来、ということになっている。伝説では、彼は英国の勝利を知っていたにもかかわらず、公債を最初は売りに出して大値崩れを起こし、その後買い占めたことになっている。

次にロスチャイルドの名が出て来るのは、David Kynastonの"City of London: The History"で、これによれば、1825年イングランド銀行の金準備が枯渇した際、ロスチャイルドが救済した由。

その頃からロスチャイルドは目ぼしい事業に次々に関与していく。英国という当時の超大国をバックとしているので、それは当然世界支配につながる。例えば石油ではシェル、BPに大きな出資をしている。

これはロスチャイルドだけではないが、日本との関係で有名なのは、明治37年日ロ戦争を前にして高橋是清がロンドンに赴き、日本の戦争国債引き受けを働きかけた際、ロンドンでは予定の1000万ポンドの半分しか消化できなかったのを、米国の投資銀行Kuhn&Loebの大番頭ジェイコブ・シフ(ユダヤ人)が残りの半分を米国の方で消化することを申し入れてくれたという件がある。ロスチャイルド等、ロンドンのユダヤ系資本はロシアに大きな利権を持っていたため、日本を大々的に支援することは避けたかったのだろう。シフがわざわざ米国からやってきて、高橋とわざわざ知り合いになって詳しい話しを聞いてきたというのは、背景に英米間のユダヤ・コネクションがあったものと思う。
その他、世界的な大投資銀行バークレーズにもユダヤ系資本はかなり入っているようだし、英国の東インド会社の流れでスコットランド人2名が設立した大商社Jardine&Matheson(日本の幕末にはグラバー商会を通じて長州、薩摩などに出資。坂本竜馬の海援隊もその下請けとして利益を得ている)の財務部格として成立した香港上海銀行HSBCはロスチャイルド等ユダヤ系資本もかなり入っているようだ。このHSBCはスイスの支店を通じて、スイスの大手UBSが差配していると言われる世界のオフショア・アングラ・マネー運営の一環を担っているようだ。

よく「ユダヤ人の陰謀」や「アングロ・サクソンとユダヤの融合」という言葉で世界の多くの(悪い)ことが説明されるが、それはユダヤ人金融家が英国や米国という超大国の御用を務めてきたことによる。しかし、世界の多くのことがロスチャイルド等、少数のユダヤ人資本家の一存で決まるわけでもないだろう。シティーやウォール・ストリートで勤務した経験のある日本人に聞いても、ユダヤ人だけを取り上げて議論することは難しい、なぜならアングロ・サクソンもドイツ人も、金融で儲けているからだ、知られないユダヤ人の顔役がいるとも聞いていない、と言う。

カネでカネを手っ取り早く儲けたいという欲求は、ユダヤ人に限られるわけではない。脇から見ていても、英国や米国の「アングロ・サクソン」の青年で、金融界で濡れ手に粟の利益を収めようとする者は多い。英国の貴族の子弟でも、シティーに勤務する者は多いのである。アングロ・サクソンのエリートとユダヤ人は密接に混ざり合っているし、今は中国人(特に女性)と通婚する世界のエリートは増えている。

中世以来、ユダヤ人の中で最も聡い者が金融で身を立ててきたのは事実だが、それを使ったのは欧州各国の生粋のエリート達、彼らは都合が悪いことが起ると何でもユダヤ人のせいにして、自分はその背後に隠れてきたというのが真実に近いのだろう。ユダヤ勢力とは無暗に対立するべきものではない。むしろお互いに協力して利を得ていく術を考える方がいいと思う
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