3月の世界情勢
昨日、「まぐまぐ」社からメール・マガジン「文明の万華鏡」第71号を発刊しました。
その冒頭は、3月の世界情勢の総括になっていますので、メルマガ宣伝のためにここに転載しておきます。
はじめに
締め切り直前になって、金正雲氏の訪中とか、佐川元理財局長の国会証言、そして株の乱高下と、ビッグなイベントが起こりました。金正雲氏は「5月末までに米国との首脳会談」というトランプ・韓国からのブラフでむしろ守勢に追い込まれていたと思いますが、中国と組むことで力をつけたつもりなのでしょう。
佐川局長の件は、野党がバラバラ、しかも「総選挙をやるぞ」と自民党から脅かされているようで、腰が引けています。総理夫妻・官邸による介入を示す新たな材料が出てこない限り、この件は沈静するでしょう。
それより当面の世界に大きく作用するのは、ワシントンの情勢。月末になってトランプのじたばたがひどくなり(モラー特別検察官が、「ロシア・ゲート」についてトランプから直接聴取を準備していることが彼を心理的に追い詰めているのでしょう)、自分と違うことを言う幹部を軒並み追い出しました。対中貿易赤字問題で強硬な制裁に反対したゲイリー・コーン国家経済会議委員長、トランプとかみ合わず実績を上げることもできなかったティラーソン国務長官、そしてマクマスター大統領安全保障問題補佐官といった大所、これに加えて「ロシア・ゲート」捜査への対応を仕切っていた主任弁護士John Dowdも22日には辞任しています。対中関税大幅引き上げ(の方向。品目が固まって実施されるまで、1カ月以上かかります)が発表された22日には、ニューヨーク市場の株価は暴落。その後、米韓の間で貿易合意ができたこと、米中の間でも交渉がこれから本格化することが明らかになったことで、一時値を戻しましたが、自分の再選のために中西部の労働者に気に入られることばかりやろうとするトランプへの不信感は、米国債の暴落を引き起こし、それが世界金融恐慌の引き金を引く可能性は消えていません。そしてマクマスターの後任にネオコン、タカ派で鳴るジョン・ボルトン元国連大使が赴任したことが、北朝鮮、イラン、ロシア、中国に対する米国の出方にどう影響するか(今のところ、イランが標的になるだろうと見られていますが)、場合によっては日本に深刻な問題をつきつけるでしょう。
これに比べれば、中国で習近平が終生権力の切符を手に入れたこととか、プーチンが再選されたことは副次的なことに見えます。やはり米国は、世界情勢を最も変えることのできる力をまだ保持しているのです。米国を抜くかに思われた中国の経済も、米国市場を閉じられてはにっちもさっちもいかなくなるので、この構図は1985年プラザ合意に直面した日本に似ています。日本は円高で米国市場を大きく閉められ、内需拡大、海外生産拡大で対処したのですが、内需拡大で転んで現在に至るわけです。中国は2008年のリーマン金融危機の際に60兆円分の内需拡大を行い、それは不良債権の山を築いているので、再び財政・金融大盤振る舞いというわけにはいかないでしょう。
これらの中で、安倍政権を取り巻く世界の状況は、青信号と黄信号の間をせわしく行き来している感がありますが、基本的なことは、次の通りだと思います。つまりトランプは大言壮語はしますが、自分の面子が立つような成果(好例が25日の米韓貿易合意)を得れば満足すること、それは彼が本当の成果よりも、中間選挙、大統領選挙を念頭に置いた人気取りができればいいと思っていること、要するにトランプは仕事をやっているのでなくて、「常在選挙戦」であること、大統領がこんな有様でも米国の力は揺るがず、中国、ロシアがどのように大言壮語し、武器を振り回そうと、基本的には米国に対して守勢であること、でしょう。
安倍政権はその外交を、こうした基本的要因に合わせて微調整していればいいので、心配なのは経済の方でしょう。安倍政権の間、日本は経済成長を取り戻しましたが、それは世界経済が回復する中で日本は円安だったことが輸出を増やし、海外投資家からの利益送金額が円表示では膨らみ、企業の手益を押し上げたことが主因です。しかし市場では円高傾向が強くなっています。28日のレートは1ドル105,7円で、2014年1月、つまり安倍政権1年目くらいの水準まで戻っているのです。「アベノミクスとは何だったのか?」と言われないよう、今新しい内容を盛っていくことが必要だろうと思います。
今月の目次は次の通りです。
日本の活性化を阻害する「有名企業」・「有名大学」・「有名高校」複合モデル
日本の製造大企業のあり方は時代遅れなのか?
マスコミで十分の報道を得ていないトピック
米国債離れ?
習近平は中国経済を破壊するか?
米中経済コネクションの深度
ウクライナの対中武器輸出を助ける日本?
今月の随筆:ダビデ像にパンツをはかせたいPTA
今月の随筆:近代の終焉
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