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2022年2月28日

ウクライナ情勢と2024年ロシア大統領選挙

(これは2月23日発行のメルマガ「文明の万華鏡」の一部です。28日現在の今は、少し新しいニュースが出てきて来ますが)

 今、ウクライナ情勢が緊張の頂点で、これまで米国内政について延々とディベートばかり放送してきたCNNも30年の昔に逆戻りしたかのように、「戦地」からの特派員ルポを喜々として放映している。米中対立の方は、中国での取材制限が厳しくて、思うようにいかなかったのだろう。そしてトランプ時代は、トランプ米国こそがニュースの焦点だった。今回CNNは、30年前のモスクワ特派員のジル・ドハティーが、白髪姿でモスクワから現地ルポだ。

そのロシアでは、12月のLevada(中立の民間機関)調査だと、ウクライナ紛争は米国とNATOの行動が原因だとするものが50%を占めるものの、56%がNATOとの戦争が起きることを恐れている。

もうぺんぺん草も生えないほど反政府派は刈り取られてしまったので、「勝手にしろ」ということなのだろう。戦争になるにしても、ロシアは徴兵ではなく契約兵(自ら志願して契約年数を務める)を使うだろう。ロシア軍の兵力の約半分は既に契約兵になっているものと思われ(小泉悠氏等による)、ロシアが実際の戦闘に投入するために2010年以降編成してきた「即応大隊」Battalion Tactical Groupsは、すべて契約兵から成る。その分、ロシア社会にとって戦争は前より他人事になりつつある。

しかし西側から制裁を受けて、昨年でも10%弱に達したインフレがさらに激しくなったりすれば、2024年の大統領選でプーチン五選の目はなくなるだろう。もともと2024年をめがけては総額約40兆円分のインフラ建設等「ナショナル・プロジェクト」を並べて、景気づけしようと思っていたのが、このインフレでインフラ建設コストが急上昇したこともあり、完遂が2030年までに延ばされてしまった。プーチン陣営にとっては、「ロシアの故地ウクライナ」を取り戻したことを2024年大統領選挙の目玉にしようと思っているのだろうが、国民から大目玉をくらう羽目になるかもしれない。

最近、話題になっているのが退役陸軍少将、セルゲイ・イワショフがものしたと言う、「プーチン大統領へのアピール」なる代物だ。これは「今のウクライナ戦争の動きは、プーチンとその取り巻きが自分達の権力と利権の保持を狙ってしかけるものだ。人命を失うばかりか、失敗してロシアは国家の主権さえ失いかねない。プーチンは責任を取って辞任するべし」という激しいもの。これをイワショフが主宰する「全ロシア将校連盟」なるもののサイトが掲載したから、かなりの話題となった。

しかしイワショフ自身、これは彼の足を引っ張るために何者かがねつ造したものだと言ったし、彼自身はかつて軍の情報・分析分野で名を挙げたことはあったが、その一匹狼的な性向を警戒されたか、セルゲイ・イワノフ国防相に軍から実質的に追い出されている。「全ロシア将校連盟」なるものも、サイトを見ても正体がわからず、おそらく名前だけの団体なのだろう。しかし上記アピールに書いてあることは的を射ていて――数カ所、ロシア語としておかしなところがあるのだが――、ロシア社会でもこのように考えている者は少なくないのだろうと思わせる。

イワショフの「アピール」以上に無視されたのが、リベラルな知識分子5000名が署名した公開書簡だ。これはリベラル系のラジオ局「エーホ・モスクヴィ」のサイトに、21日付で掲載されている(ここでは5000名もの名はないが)。これはかつてリベラル系野党の第1党だった「右派連盟」の幹事長レオニード・ゴスマンが音頭を取って、多数の文化人、医師、教師、ジャーナリストたちが署名したものである。「右派連盟」のメンバーはエリツィン時代の主流だったが、プーチン時代は旧KGBによって隅に追いやられて来たもので、2015年3月には党首のボリス・ネムツォフ元第一副首相が、夜のモスクワの街頭で何者かに暗殺されている。5000名のリベラルの生き残りが声をあげても、大衆には見向きもされない。大衆にとって「リベラル」は西側かぶれの特権階級で、政治も経済もめちゃくちゃにした張本人なのだ。

それでもウクライナ戦争のあおりでで生活が悪化し、対外的にも孤立を深めると、プーチンの立場は悪くなるだろう。「プーチンでは大統領選、うまくいかないかもしれない。プーチンでは自分たちの地位と利権を守れない」とエリート層(旧KGBが主)が思い始めたら、どうなるか? 旧KGB、寡占資本家たちは、「次のプーチン」を探し出してくるだろう。プーチンは、代わる者のない優秀な指導者であるかのように思われているが、そんなことはない。プーチン自身、大統領に就任したての頃は、「ロシア人らしからぬ頼りない物腰の男」というイメージがあり、就任後半年もたたないうちに起きた原子力潜水艦「クールスク」の爆沈事件の際には、ロシアの混乱、無力を一身に体現した弱い指導者の姿をさらした。

プーチンは、1999年12月にエリツィンに大統領の座を「禅譲」される前、モスクワに現れたのはわずか1996年。皆の目にとまるようになったのは、大統領府第一副長官として地方行政を担当するようになった1998年ぐらいだろう。今回も今から準備を始めれば、2024年に向けてのスターは作れることだろう。

そしてワイルド・カードとして筆者が冗談半分注目しているのが、冒頭書いたように、ベラルーシのルカシェンコ大統領。なぜ彼が「外国である」ロシアの大統領になり得るのかと言うと、ロシアとベラルーシは「連合国家」協定を結んでいて、名ばかりとは言いながら共同議会もあるし、冗談半分でルカシェンコが連合国家大統領になってロシアにも君臨するというゴシップが流されたこともあるからだ。

強面のルカシェンコは、ロシア人一般の「指導者」のイメージに合致している。2000年8月の大統領選挙では、票数をごまかし、公安機関の力に依存して居座り、現在に至っている。この粘り腰も、ロシアの旧KGBにとっては「好ましい」資質だろう。

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