Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2020年1月25日

1月の情勢まとめ メルマガ 文明の万華鏡 から

(22日「まぐまぐ」社から、メルマガ「文明の万華鏡」第93号を発行しました。その冒頭は1月の世界・日本情勢のまとめとなっています。ここに掲載しておきます)

あらためて新年おめでとうございます。
年末から1月にかけては、世界の今後の基調を規定するような重大な事件がいくつも、相次いで、或は同日にいくつか起きました。台風異常発生のようなものです。

仁義なし、ならず者の支配する世界へ

3日早々には、イラクでイラン革命防衛隊の幹部スレイマニが米軍のドローンによって、疾走中の車中で爆殺されました。これを受けてイランは8日、イラクの米軍基地をミサイルで攻撃するという大胆な行為に出ました。戦争に拡大すること必至だと、世界が息をひそめる中(実際にはイランは、米軍に死傷者が出ないよう、攻撃先を密かに通報し、「これにて打ち止め」にしようというシグナルを送っていたようですが)、トランプは「幸い、米軍に死傷者は出なかった(実際には約10名の負傷者が出たようですが)。自分は報復のエスカレーションを望まない」と声明したのです。トランプは、イスラエルやサウジのようにカネを出してくれるスポンサーの言うことを何でもかなえてやるが、それが戦争になりそうになると放り出す、ということが如実になった一幕でした(このあたりは講談社の「現代ビジネス」に書きましたので、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69775をご覧ください)。

こうして世界は、大国のエゴ、力とカネが支配するものになりつつあります。私は以前、「ワルの外交」という本を書きましたが、これは「本当は善人なのが、時々ワルをして相手を出し抜く」という程度の話しでしたが、今度は「ならず者の外交」という本でも書かないといけないのでしょう。反社会勢力と付き合っている国会議員など、これからの外相にふさわしい、ということになります(半分、冗談)。

そして自由、民主主義といった近代西欧の工業化社会の価値観は、格差拡大が起こしたポピュリズムの波の中、泥にまみれつつあります。工業化は都市に広範な中産階級を生み、彼らが「市民社会」の価値観を支えてきましたが、工業の空洞化は中産階級を溶解させ、市民社会を分解させつつあります。その様は、19世紀の産業革命が西欧の農村共同体を分解させた過程と似通って、今度は都市の中産階級共同体が分解しているのでしょう。その結果放り出される下層の人間達はこれからどうなるのか、まだ見えてきません。

米中貿易合意で、日韓台湾は放り出される?

15日には米中の貿易問題に関する「第1段階の合意」が達成されました。中国はこれからの2年間で対米輸入を、米国が関税を引き上げる以前の正常値に比べて2000億ドルも上積みすることを約束したわけですが、中国経済不振の中、これの実行は難しいでしょう。

しかし貿易交渉で米中いずれが「勝った」かという議論よりも、トランプが矛を収めた、大統領選までこの問題を蒸し返すことは多分やらないし、やれないだろう、ということの方が重要です。米政府による先端技術の対中輸出制限は強化されるでしょうが、トランプの関心は呼ばないでしょう。彼は、「中国の一方的な貿易黒字を減らし、米国労働者のための雇用を回復した」ということを大統領選で言えればそれで充分だからです。

こうして、「米中は関係修復(21日ダヴォスの世界経済フォーラムでトランプは演説。「自分と習近平の関係はかつてないほど良好」と言っています)。そしてトランプは海外での戦争はしない」ということが世界の基調として当面定着したわけです。キッシンジャーは昨年11月14日の講演で、米国はもう中国を倒すことはできない、競合しつつ共存していくしかない、と言っています。

こうなると北朝鮮は、トランプ米国をなめ、また大胆な挑発に乗り出すことでしょう。中国は、台湾に対して強硬な姿勢に出て、事態の展開次第では海軍を使って台湾を封鎖するような挙に出るかもしれません。その時米国が軍事介入しないと、日米安保条約もその有効性を疑われることになるでしょう。逆に米国が軍事介入し、それに自衛隊が参加しますと、日本は中国からの攻撃を受ける可能性が出てきます。もし自衛隊が参加しないと、今度は米国の方が日米安保条約の有効性を疑ってくるでしょう。こうして、トランプの「大胆な」外交は、世界の枠組みを崩壊させ、力とカネが世界を支配、中小国が割を食うことになりつつあります。

トランプ弾劾の見通し

トランプ弾劾は現在、上院に上がっていて、「3分の2の票を取れずに、あっさり否決される」という見方がもっぱらですが、民主党は喚問する証人を増やす等、この件を最大限に活用しようとしています。上院の議席(100)は、共和党が53、民主党が45になっていて(無所属が2)、憲法は「弾劾裁判に出席した議員の3分の2以上の支持があれば」弾劾は成立するとしています。この「出席した議員の」という規定の意味が不明瞭で、資料の中には67名以上(つまり上院議席の3分の2)という数字を掲げるものもありますが、確認はできません。もし100名の3分の2、そのうちのまた3分の2ということだと44名で、共和党議員が多数欠席すれば、弾劾は成立します。

弾劾が成立せずとも過半数を取れば、世論に大きな衝撃を与えるでしょう。もしかすると、共和党内部から大統領選に立候補する者が現れ、党大会でトランプにチャレンジすることになると面白い展開になるでしょう。

 いずれにしても今の情勢では、トランプは再選。そして続く4年の間に世界の同盟体制は崩壊し、諸国は完全自主防衛と周辺諸国との無原則な合従連衡を迫られることになるでしょう。

ロシアの首相更迭劇-警察国家からマルサ(税務査察)国家

1月15日には、米中貿易合意程の重要性は持ちませんが、ロシアで首相が交代する一幕がありました。

同日午後プーチン大統領は議会で年次教書の演説をし、その末尾で憲法の改正を提案したのです。詳しいことは、このメルマガの号外で別途お送りするつもりですが、その改正の中に、「首相は総選挙の結果を受けて議会で選出。それに大統領は異議を唱えることはできない(但し後に解任することはできる)」という箇所があったのが、メドベジェフ首相の気に障ったのでしょう。彼は現在の憲法に従い、2012年の大統領選挙の後、大統領によって指名されていて、2021年に予定される総選挙の結果、議会で選出される者が首相になるという憲法改正案を事前に教えられていなかった可能性があります。

そのせいか彼は右演説直後、プーチンの執務室に駆け込んで差しで面談、その1時間半後には閣議メンバーが集められ(と言っても、全員集まっていたかどうか。ラヴロフ外相はウズベキスタンにいました。つまり、内閣総辞職は予定されていなかった可能性があります)、メドベジェフは「憲法が改正されれば、三権の間の関係は大きく変わる。プーチン大統領が、改正される憲法の通りにものごとを進めやすいように、内閣総辞職する」と述べ、あっさりと辞任してしまったのです。

その3時間後、プーチンはミシュースチン国税庁長官を後任の首相に指名したわけですが、前から決めていたことであれば、もっと早く発表できていたのではないでしょうか? 因みに新しい内閣は21日に発足しましたが、半分は留任で、一部に引退をうわさされたラヴロフ外相も残っています。

ミシュースチンは無名で、「つなぎ」に見えますし、初閣議をYouTubeで見ると、何となく居心地悪そうにスピーチしているのですが、調べてみると中々のやり手。プーチンが大統領になった時も、マスコミからは散々軽量級として揶揄された時を彷彿とさせるものがあります。詳しいことは号外でご覧いただきたいのですが、ミシュースチンが業績を上げれば、2021年の総選挙後も首相、つまり次の大統領候補となる可能性があります。

「今回の憲法改正は、プーチンが2024年の退任後も権力を実質的に維持するための仕掛けだ」という意地悪な評価が西側、そしてロシアのリベラルの間では多いのですが、「ロシアのように広く、社会が複雑な国は、強力な大統領の下でないと治まらない」(年次教書でのプーチンの言葉)のは事実。彼が大統領職から退くだけでも、進歩と言えるでしょう。

安倍政権はいつまで

 安倍政権にすきま風が吹いている感があります。問題が次々に表に出るのを抑えきれない程、力が落ちている、と言うか。特に菅官房長官をめぐって、種々の軋みが目立ちます。最近検察や世論に叩かれている議員の多くは菅系と目される人達ですし、「桜を見る会」の招待者名簿破棄の問題についても、非難は菅官房長官に集中し(毎日記者会見をしている以上、当然そうなるのかもしれませんが)、彼もきちんとした説明ができずに評価を下げるという事象です。

 これは最近、菅官房長官が自分の勢力拡大の挙に出ていたことが、党内の反発を呼んでいるのでしょうし、総理官邸内での権力争いも響いているのでしょう。社長と専務取締役の間に齟齬が生じれば、どの企業ももちません。国会でのIR問題審議の末、問題が政権上層部に及ぶようなことになると、政局になることも考えられるでしょう。これまでカリスマがないので、岸田政調会長は軽視されてきましたが、彼の安定感、誠実さが案外貴重なものに感じられる時代になりました。
というわけで、今月の目次は次のとおりです。

 新しい国家形成ルールの模索
 台湾旅行記
 まだ世界に残る、米国への期待感
 内部分裂しているイラン

 常識を疑う・シリーズその2
 1)モスクワ、その面白さで世界5位に
 2)ロシアの株式、昨年は世界最高のパフォーマンス

 与太話し
  アイダホで捕まった猫はロシア生まれ

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