ロシア旬報第1号 経済
1)西側マスコミは、「ロシア経済の沈滞」を囃したてている。今モスクワでこれを書いているが、別に街の表情がいつもに比べて沈滞しているわけでもない。しかし数字的には、2018年にそれまでのマイナス成長からプラス成長に転じたGDPが、本年に入って成長度を緩め、第1四半期は0,5%、第二四半期は0,9%の成長で終わっていることは重い数字である。またタジキスタンから出稼ぎに来ているタクシー運転手の話しでは、タジク人はこの頃米国や韓国に出稼ぎに行くことを選好している由。それは「ロシアでの稼ぎは割が悪い」ということ。つまりルーブルのレートがタジクの通貨ソモニに対して低下してきたために、ルーブルで稼いでも割が悪いのだ。
ということは、ロシアが実質的なインフレで、所得水準を一貫して低下させていることを意味する。ただ、近く採択される来年度以降の予算は、インフラ建設を中心に歳出を膨らませる構えなので、それによるカンフル注射的効果はあるだろう。
政府はこれのために、これまで原油輸出・生産への課税から積み立ててきた、「国民福祉基金」(現在約1250億ドル相当)をインフラ建設等に充当しようとしている。しかしロシアは遊休設備を抱えているわけではなく、建設資材の多くは独占企業が抱えているので、インフラ建設増強は資材不足を容易に生み、ボトルネック型インフレを生じさせやすい。
2)とは言え、ロシアはこの2年ほど、財政黒字を続けている。歳出を極力抑制しており、軍事費がそのしわ寄せを食っているかっこうになっている。また医療費が高くつく。特に手術の場合には、医師への「支払い」を怠ると何をされるかわからないと、庶民は言う。また軍需企業が銀行に負う債務が急増し、公的資金を注入することなしには銀行がデフォルトを起こす寸前にある(後述の軍の部分を参照)。
3)そして経済・財政・金融政策をうまく調整して引っ張っていく「司令塔」の機能が、ロシアでも見られない。ゆうちょ銀行に相当するズベル・バンクのグレフ総裁は、そのあたりをこうついている。「何をめざすのか、どうやってそれを実現するのかについての合意がない。それなしに、通貨の量等を議論しても意味がない。ロシアはマネジメントの欠如が最大の問題だ」と。
その中で、中国と同様の「国進民退」(経済における国営部分の肥大)のトレンドは続いている。2008年のリーマン危機後、危機に陥った銀行や大企業に公的資金を注入することで実質的に国営化したこと、そして2014年クリミア併合に対する西側制裁で、西側で起債できなくなった民間銀行が国家資金への依存度を強めたことが背景にある。9月11日のWSJ紙は、2018年全銀行融資のうち70%は国営銀行によるもので、ロシアの10大民営化銀行が占めるシェアは2016年の17%から11%に落ちていると報じている。
4)しかし、青年はスタート・アップ企業を起こす意欲を持っている。その多くはゲームやアプリ作成のインターネット系である。因みにスマホの活用ぶりでは、ロシアは日本の先を行く。スマホによる非現金決済、公共交通機関の支払い、路上駐車料金のその場での支払い、あるいは便利なタクシーの呼び出しアプリ等、ここではロシア人の豊かなイマジネーションがいかんなく発揮されている。他方、美容院のような個人業は、「その手続きの全ての段階で」賄賂を要求されるため、諦める市民も多い。
5)なお、ロシアは環境是正のためのパリ協定に9月下旬、加盟を表明したが、これはCO2排出を2030年までに1990年の70%にするという約束をしてのもの。何とかかっこうをつけているが、ロシアは実際には今より排出を増やせることになる。というのは、1990年はソ連のCO2排出のピークで32億トンだったのが、2000年には19億トンに減少、2017年にはやや増加して21、5億トンになったばかりだからである。
その蔭では、8月末、プーチンは7の石炭産出州の知事を集めた会合で、石炭生産を現在の4,4億トンから、これからの15年間で6,7億トンに増産するべく檄を飛ばしている。増産分のうちかなりのものは北極航路等で、アジアに輸出する構えで、これは世界の趨勢に反する動きである。要するに、炭酸ガス排出枠をまだ持っているアジアの諸国に石炭を輸出することで、自分は外貨を稼ごうという卑怯なやり方なのである。
経済をエネルギー資源の輸出に依存するロシアは二酸化炭素排出制限運動を憎んでおり、スウェーデンの少女トゥンベリを絞首刑に処する画像がSNSに投稿されたりしている。ここは、世界から厳しく批判されるべきである。
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以下はデータ・バンクより
★19、9、20 Www.rt.com
天然資源環境省、石油埋蔵の価値を1、2兆ドルと計算。昨年のほぼ倍。埋蔵量はさして増えていない。鉱産資源全体だと1、5兆ドル。
天然ガス埋蔵量は物理的には3、6%増えただけだが、金額では約25%増えて2210億ドルに。
★19、9、19 Intellinews.com
ノヴォシビルスクでの学会で、教育・科学省のイノベーション・先端科学研究局長Vadim Medvedev、「いくつかの分野では世界に伍しております。量子技術を使ってのスパコンを制作することで、ロスアトムと話しをしております」
★19、9、19 Intellinews.com、Chris Weafer
秋の予算論議がキー。
1)歳出を増やすかどうか、何に増やすか?
2)家計の負債が崩壊するのをどうやって防ぐか?
3)national projectsをどうやって加速するか?
国民福祉基金はあと数ヶ月で、GDPの7%を越えようとしている。
★19、9、13 www.rbth.com
8月1日現在、国家の公的債務(対内、対外双方)は16、2兆ルーブルでGDPの15%。
・なぜこうするのかというと、近い将来に世界経済のスローダウンを予測しているから、そして西側での借り入れが難しいため。
★19、9、13 TASS
グレフ、シンポで経済政策批判。「何をめざすのか、どうやってそれを実現するかについての合意がない。それなしに、通貨の量等を議論しても意味がない。ロシアはマネジメントの欠如が最大の問題」
★19、9、12 Interfax
シルアノフ、「今年の成長率予測は1、3%で不変。来年は2%が目標だが、予算は経済発展省の1、7%に基づいて作る」
★19、9、11 WSJ
GAZのデリパスカ、対外経済銀行から借りて、西側への債務を支払った。そのため、西側銀行への債務はなくなったが、ロシア国家への債務は14億ドルに。
・2018年、全銀行融資のうち70%は国営銀行から。2016年には64%だった。ロシアの10大民営化銀行のシェアは17%から11%に落ちた。
★19、8、1 Russia Beyond
Stasher、シェレメチェヴォを世界でもっとも遅延のない空港とする。年間で遅延は便数の10%のみ。15分以上の遅れは6%のみ。
駐車場料金は安く、ラウンジも多数、ホテルも。
★19、9、3 Intellinews.com
GDPは第1四半期0、5%、第2四半期0、9%とふるわないが、企業利益は好調。
6月は5月より194億ドル相当伸びた。1兆2970億ルーブル。
★19、9、3 Intellinews.com
電子商業、電子取引、E-commerce、上半期で7250億ルーブル。26%の増加。
件数は1、91億で、44%増。
★19、8、23 The Barents Observer
石炭重視・増産。
鉱夫の日で、プーチンは7の石炭生産州知事をクレムリンで。
クラスノヤルスク、ケメロヴォ等。
この10年で石炭生産30%増えて4、4億トンに。世界で3位。投資は150%増。
これからの15年で6、7億トンに。
58の炭田が稼働。うち半分は最近20年の間の稼働。
・Taymyr半島に年間2500万トンの新炭田開発。Vostok石炭と「北の星」社が関与。カラ海に面して二つの積み出し港建設予定。
これを北極航路でアジアへ輸出。同航路の貨物を2024年までには8000万トンにするという6カ年計画の主要なアイテム。
★19、8、22 Centrasia
ルーブル、8月に4%下がり、1ドル67ルーブルに。
★19、8、20 Www.rt.com
金準備、7月9トン増えて1019億ドル分に。1月で1、64%増。外貨準備の19、6%、2217トン。
★19、8、16 Bloomberg
グラジエフ、7年間大統領顧問の後、minister for integration and macroeconomicsに転出。ユーラシア連合をみる。
★19、8、12 Intellinews.com
Fitchは、ロシアの投資適格度をBBB-から、2014年のBBBに引き上げ。
この2年間で外貨準備を700億ドル増やし、6000億ドルに近づきつつあること等、評価。
★19、8、12 Bloomberg
ロシアの外貨準備、サウジを抜こうとしている。そうなると、世界4位に。サウジは1バレル80ドルでないと財政赤字。ロシアは1バレル40ドルで予算を編成。緊縮。
→外貨準備は4年で45%増加して、6月には5180億ドルに。
★◇19、8、2 Www.ridl.io
ロシアへのFDI、中銀の公式統計は意味ない。
多くがTax havenからのものになっている。たとえば米国からのFDIは微少ということだが、実際にはもっと多いのだ。
これは、米国企業がロシアに持っているStakeはかなり大きいものなので、米国政府としてはみだりにロシアを制裁すると、ロシアにある米国企業の資産を凍結されたりするリスクがあるということになる。
またFDIではないが、ロシア国債の10%は米国企業が保有しているので(150億ドル)、ロシア国債の売買を禁止すると、(価格が暴落して)米国企業が損害を被る。
・2018年FDI累積額は4070億ドル。
中銀統計では、うち68%はTax havenから。サイプラスが30%。
・中銀統計では米国から26億ドルのみ、中国からも31億ドルのみ。しかし米国は第三国の支社等から投資することもあり、このためリペツクへの投資が勘定されていない。中国もキプロスを経由することが多い。
・ロシア統計局は2014年まで、国際標準にならって、外国企業のロシア国内での利益再投資分も勘定していた。
・現在UNCTADは、FDIを実際の投資国に属せしめる統計改革を行っている。これは革命と言ってもいいものだが、算定方法は数式に基づく原始的なもの。
・それでもUNCTAD方式では、米国がロシアへの最大の投資国となる。2017年末で累積391億ドルで、中銀統計の12、6倍。
2位がドイツで332億ドル。英国が3位で313億ドル。
一方オランダは中銀の410億ドルではなく、290億ドルに減る。第三国企業のものが入っていたため。ルノーのAVTOVAZへの投資とか。
・UNCTADによると、累積FDIの6、5%、289億ドルがロシア人によるもの。
ロシアからキプロスへのFDIは1720億ドルだが、うち1250億ドルはロシアに戻っている。
・米国、フランス、ドイツ、日本等は、第三国支社からロシアへのFDIも含めているが(?)、これを含めると、米国からロシアへの累積FDIは2017年末で139億ドル。ドイツは213億ドル。日本も日本タバコがドンスコイ・タバコを買収した例がある。
・外国企業のロシア支社による投資も含めないといけない。
・中国も同様。Skolkovの研究所推計では、2017年末360億ドル。
★19、9、9 The Bell
(ベンチャー、青年)VologdaのBukhman兄弟Dmitry,Igor、学生時代の2001年に企業。2005年には100万ドル稼ぐ。
ゲーム作成のPlayrix社。
現在世界で1億人が使用。
2018年売り上げは12ー13億ドル。
各々、14億ドルの資産所有。
★19、8、31 The Bell
インターネットの操作アプリで儲け、アリババに年間6000万ドルもらっているDmitry YeremeevはコングロマリットFIX Groupを立ち上げた。不透明。
またこの4年間で初めての、銀行の新規たち上げをした。
・フィンテックのRevolut社より大きい。
★19、8、31 The Bell
ロゴージンの肝いりで(就任以来、フョードルのSNSアカウントも作り、宣伝)ロボットのフョードル、ソユース宇宙船で国際ステーションに向かう。ロボットではあるが、自分で判断はできず、特別の服装をした飛行士が操る(文楽)。
1回目のドッキング失敗し、結局ステーションの方から人間の操縦でドッキングに成功。
・これはマグニトゴルスクのベンチャー、Android Technika開発。
・9月7日帰国して、博物館へ行く。
★19、8、6 M.T.
IMF。2014年以降、原油価格下落はロシアにとって年間平均487、5億ドルの損失。制裁は150億ドルの損失。
それに高金利が成長を下げている。それぞれ年間0、65%、0、2%、0、1%分。
この3要因なければ、この間ロシア経済は5、9%成長したはず。
実際は2、5%%だった。
★19、8、6 The Bell
米中貿易戦争のあおりで世界の原油価格低落。ブレントは4月のピークから20%下がって、56、7ドル。
ルーブルは現在、世界でももっとも浮沈の激しい通貨の一つになっている。
そして人民幣の減価で、ロシアの外貨準備の14%を占める元分も15億ドル相当減価した。
・景気低下で、ルスアルの純益は上半期、41%減少。
★19、7、26 WSJ
中銀、利子率を7、5%から7、25%に利下げ。米国、EUに合わせる。
★19、7、25 Reuters
ロシアの株式好調。本年、西側をしのぐ。利下げでさらにあがるだろう。
★19、7、23 N.G.
ロシア1ー4月、この10年で最大の出稼ぎ者数増加。実態が統計に出てきただけの話のようだが、細かいことはわからない。そして実際の出稼ぎ者の64%はもぐりのようだ(ガイダール研究所)。
・1ー4月の増加は9、8万。昨年同期は5、7万。
・特に増えたのはアルメニア、ウクライナ。ベラルーシ、モルドヴァからは減った。
主な供給国はカザフスタン、ウクライナ、タジキスタン、アルメニア。
(ユーラシア連合加盟国からは、労働ビザ取得なしに働ける。これもウズベクがユーラシア連合加盟を検討する一つの材料だろう)
・ガイダール研究所調査では、6月1日現在、440万の出稼ぎ者がいる。うち110万がユーラシア連合。2014年以来、100万減少している。ルーブルの減価が原因。
★19、7、17 Reuters
IMF、本年成長率見通しを1、4%から1、2%に下げる。
福祉基金をインフラ建設に支出するのではなく、高品質の外国資産に投資することを勧める。
★19、7、14 Www.rt.com
ドイツとの貿易、投資、急増。
第一四半期、FDIは17億ドルで、昨年(この10年で最高)の上半期分を超える。
昨年同期比33%増。年間では、この10年以上で最高となるだろう。
・昨年も32億ドルで、2008年以降最高だったが、2007年の78億ドルには及ばない。
・貿易も昨年8、4%増えて、620億ドル。
★19、7、12 TASS
(クレジット・カード使用が難しくなる法改正進行中)
★19、7、11 Asia Time
メドベジェフ、ベラルーシからカザフ国境への2000キロのハイウェー建設案件承認。Meridian Highway。中国と欧州を結ぶ最短のハイウェーとなる。
(カザフスタン部どうなる?)
・95億ドル程度の費用。予算は出さない。中国等からの投資に期待(それではできない)。
・有料だが、投資家は政府が年間5、5億ドルの収入を保証するよう求めている。政治的理由で国境を閉鎖したりしないように。
★◇19、7、5 The Bell
ロシア経済は停滞から不況に向かう兆候を示している。当局は改革ではなく、公共投資増加で刺激しようとしているが、これはインフレ激化、利上げ、いっそうの不況につながるだろう。
・不況の印は、6月鉄道貨物量が5、4%減少したこと。
そして5月、GDPは0、2%、1ー5月には0、8%しか上昇しておらず、目標の1、3%に届いていないこと。プーチンの言う3%には遠く及ばない。
・ナビウリナとオレシュキンはなじりあいをしている。
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