ロシア旬報第1号 旧ソ連諸国への外交 欧州方面 6月から9月
米国のトランプ政権が外交戦略を欠いている中で、ロシア外交がポイントを上げる例が増えている。第2次大戦終結後、スターリンが東欧諸国を従えて行った過程を想起させるものがある。ロシアのマスコミでも、「(経済面での)ソ連の復活」を明言する者が出ている。と言っても、バルト・東欧諸国はEU,NATOに入っているので、当面後戻りはなく、ロシアの勢いが看取できるのは、(バルト以外の)旧ソ連諸国に限られている。
1)ベラルーシに対してロシアはこの数年、圧力を強めている(空軍軍事基地設置を迫って断念)。現在の動きは、12月に20周年を迎える「連合国家条約」(当時は喧伝されたが、殆ど何も起きていない)深化であり、9月には2022年までにロシア・ベラルーシ経済国家連合を作るための工程表なるものが、ロシアの新聞にリークされている。これは税制統一、エネルギー政策の単一化等、具体像が漠然とした目標を並べたものである。
ルカシェンコはこれとのバランスを取るために、近年は米国、EUとの関係増進に余念がない。ベラルーシの人権問題で関係が希薄になっていた米国とは、5月にクラフチェンコ国防相の訪米を実現したし、米国は2008年に本国召還したままになっている大使を、ベラルーシに再び派遣する構えでいる。
これらの動きの蔭には、ボルトン安全保障問題補佐官がいたと思われ、彼は8月末にベラルーシを訪問した他、31日にはポーランド、ウクライナ、ベラルーシ三国の大統領安全保障問題補佐官会合に同席している。これは、ロシアへの守りを固めるための動きだったのだろうが、ボルトンがこの直後に実質的に解任されたことから、今後は見通せない。当面、11月の総選挙、来年央の大統領選が情勢の転回点となる。
2)モルドヴァはこの数カ月、興味深い動きを示してきた。この数年、ルーマニアの保安機関とも共謀してモルドヴァの利権と政治を牛耳ってきた実業家プラホトニュクは6月、米露EUが手を握り、親ロシアのドドン大統領が率いる社会党と、親EUの政党連合ACUMの連立政権を実現させるとともに、米国大使がプラホトニュクと対峙して引導を渡すというドラマの結果、国外に逃亡した。EUはこれまで彼の「親西側姿勢」に騙されてきたのだが、それに気が付いたもよう。
ただ現在の情勢では、ACUMとEUがロシアに騙されたことが如実になりつつあり、ドドン大統領はショイグ・ロシア国防相を招いて軍事協力を推進したり、国際空港や海への出口である河港をロシア企業に売却する姿勢を示す等、ロシアに傾く姿勢を露にしている。そして国内の分離勢力(ロシア系)が支配する「沿ドニエストル」(ソ連時代からロシア軍が駐留。ソ連崩壊後、武闘を経て強い自治権を獲得している)も、ロシア軍と共同演習を行ったりして独立性のアピールを強めている。
なお、ウクライナについては動きが多いので、別途フォローすることとする。
以下はデータ・バンクより
(ベラルーシ)
★19、9、17 Intellinews.com
16日づけコメルサント、2022年までにロシア・ベラルーシ経済国家連合を作るための工程表を入手して報道。ペスコフは、これはまだ案だと言う。
・税関、エネルギー政策の単一化。2021年までに。税制統一。
・力の機関分野は統一せず。
・単一通貨も明示はないが、決済は単一化。
・ロシアは、「2011ー15年、1800ー2300万トンの原油をベラルーシに無税で輸出した。そのため、ロシア財政は223億ドルの損失を受けた」。ルカシェンコは、単一関税のせいで150億ドルを失ったと主張。
★19、9、17 Bloomberg
米国はベラルーシとの大使交換を再開する構え。2006年にルカシェンコを制裁対象にし、2008年には大使を召還した。
★19、9、10 Intellinews.com
ベラルーシのKrutoi経済相によれば、ロシアとの経済統合深化協定はほぼまとまり、12月8日のUnion State条約20周年で発表できるだろう。
内容不明。いくつかの商品については共同市場とするもので、2020年の具体的合意に向けてのロードマップを示すものになるだろう。
★19、9、3 James
ルカシェンコ、独立政策強化。
2006年の米国制裁が近く終わることにあわせ、米国原油輸入のために米国人ロビーストDavid Gencarelliを雇う。これまでもベネズエラ、アゼルの原油を輸入したことはあるが、米国からは初めて。
・8月29日にはボルトンが来訪。8月31日ボルトンはポーランド、ベラルーシ、ウクライナのNSC長会合に同席。
・他方、ワルシャワでの開戦80周年式典にはいかず。プーチンが招待されていない。
★19、8、28
ワルシャワでの開戦80周年式典に、ルカシェンコ欠席。プーチンが招待されなかったことが響く。
★19、8、20 Carnegie
11月総選挙、来年央、大統領選挙。ルカシェンコは6期目になる。
外交、内政とも節目になる。
★19、5、7 James,Grigory Ioffe
Kravchnko国防相、訪米。4日間。Fiona Hillとも会談。
近年の米国との宥和は注目を引いているが、2008年以来、双方とも大使を召還したまま。
★19、5、1 James
外務省は先週までがんばったが、プーチンはベラルーシのルカの度重なる申し入れを受けて、Babich Mikhail大使を更迭。後任はあのメゼンツェフ。4月30日、K.がすっぱ抜いたところでは、バービチは連合国家を推進するようにとのプーチンの意向を受け、突っ走りすぎたもの。元々内政の経験しかなく、ベラルーシを見下していた。
・しかしバービチは昇進するだろう。メゼンツェフもあたりは柔らかいものの(そのあたり、卒業論文のテーマ)、目標は変わるまい。
・在ベラルーシのロシア大使館は、次席がGRUのAleksey Sukhovで、バービチがヴォルガ連邦地区代表だった時、次席だった。
他にもGRUのAndrey Klintsevichがいて、これはクリミア併合の功績でプーチンから表彰され、ウクライナからは追放された男。
多くの大使館員はバービチ以前から勤務している。
(モルドヴァ)
★19、7、29 James
最近、沿ドニエストルはロシアともつるんで、OSCEをOffendする措置を連発。モルドヴァとの哨所に軍人を配置したり、ロシア軍と共同演習をしたり、ロシア代表団にまぎれてジュネーブの人権委員会で発言して、オブザーヴァーの地位を求めたり。
OSCEは何もできない。
・2005年以来、5+2グループで話し合い。ロシア、ウクライナ、OSCE(スロヴァキアが今年の議長国だが、このフォーラムではロシアの信任の厚いFranco Frattiniが続けている)、米国、EU、及び二者。最近はドイツも間接的に関与。OSCEのミッションの団長となり、Berlin Packageを推進。
Berlin Packageで社会面での改善を続けている。Open End。
・10月には5+2の年次会合予定されており、沿ドニエストルの銀行、鉄道の自主性を認める方向。
これまでも、沿ドニエストルの車ナンバーを国際的に承認。農地の民営化の逆戻し、モルドヴァ語学校へのチシナウ政府の管轄権廃止。
・米国とEUは関心を持っていない(?)(かつてモルドヴァに赴いたという米軍関係者はその後どうしているのか?)
しかし、Berlin Packageの推進を凍結し得る。
・ウクライナは、沿ドニエストル方式を東ウクライナに適用されるのをおそれて、参加を続けているのだろう。
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