Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2024年8月31日

文明の万華鏡第148号発刊 8月の世界・日本情勢

メルマガ「文明の万華鏡」第148号を発刊しました。冒頭部をここに転載します。ロシア、中国、米国、日本情勢のまとめになっています。全文ご所望の向きは、「まぐまぐ」社にログインして「文明の万華鏡」を検索ください。

はじめに

そろそろ夏も終わりの気配。世の中は11月の米大統領選、9月末の自民党総裁選を軸に、活発な政治の季節に突入せんとしています。
 米大統領選。トランプはバイデンの突然の退場で、攻撃目標が突然消滅。ずっこけて迷走し、「確トラ」から「やっぱり駄目トラ」になりかけましたが、民主党のハリス候補もこれから叩かれれば埃の1つや2つは出てくるでしょうから、レースは互角になるのでしょう。
それでも、社会の4分の1にも満たない困窮白人層の不満を煽ることで勢いをつけてきたトランプ陣営は、支持基盤を広げることができず、限界を露呈するでしょう。彼は「これまでの米国」の最後の章に登場した変わり者、ということで終わるのでしょう。多民族化、価値観の多様化を所与として、米国の新たな物語を紡いでいくのは、カマーラ・ハリスの方の役目なのだと思います。基本の問題に手を付けることなく、いろいろな問題に火をつけては民主・共和両党の党派的対立の種とし、そこに莫大なPR資金をつぎ込んでは偽りの対立軸を作り上げるのはやめて欲しいと思います。

(領土を食い破られて平然――プーチン政権の不思議)

 ウクライナが隣接のロシア領クールスク州を「制圧」したと言われますが、その強度は不明です。ウクライナ軍は15名程のグループに分かれて潜伏。ゲリラ戦のような戦いをしている、という報道(21日付イズベスチャ)もあります。ウクライナ軍がクールスクに「作戦司令部」を樹立したという報道もありますが、24日付RBKによればこれは治安・住民の生活支援を任務とする行政本部のようなもの。

 輪をかけてわからないのは、ロシアが一向にクールスクを再制圧しようとしていないことです。現在東ウクライナで占領地域をじりじりと広げている最中なので、クールスクまで兵は回せないということなのか、クールスクでウクライナが実効的な支配を確立したとは思っていないのか、軍、国内軍、国境警備隊、公安局特別部隊のどれが対応するかで争いがあるのか、あるいは単に兵員、兵器・弾薬が足りないのか、わかりません。

折しも国防省ではトップがショイグから経済学者のベロウーソフに交替。これだけでも軍人たちは「?!」と思っているでしょうが、国防費の使い方に問題があった、横領もあったということで、国防次官12名のうち10名もが更迭。新任の多くは公安か財務畑出身で、軍務の経験なし。軍人住宅を担当する次官も、これまで軍とは無関係の女性(プーチンのハトコ)と言うのでは、軍人たちも「やっちゃられねえよ」となりかねません。プーチン政権下で、これほどの野放図な人事が行われたことはまだないでしょう。

しかもプーチンは、ウクライナ軍が侵入してきたというのに、「これはテロだ。きちんと対処しろ」とデューミン大統領補佐官に命じて、自分はコーカサス地方に公務で旅立ってしまいました。諸方を飛び回るヘビーな日程をこなして帰京はしているものの、チェチェンで重病と言われる旧臘カディロフ首長と会ったり、その直後には2004年9月学童が200名近く殺されたテロの舞台、ロシア南部のベスランを訪れて慰霊碑の前で跪いています。

何かセンチメンタル・ジャーニーの匂いが漂うのが気になるところ。ひょっとして、べた下りでウクライナと停戦。自分は辞職してけじめをつける。1999年12月、政治・経済、あらゆる方面で行き詰ったエリツィン大統領がプーチン首相に権力を禅譲した日を思い起こします。

今年は世界中で、任期途中の辞任が大流行。英国のスナク首相に始まって、米国のバイデン大統領、日本の岸田総理。インドのモディもフランスのマクロンも総選挙の結果が思わしくなくよろよろしていますし、ドイツのショルツ政権は迫る東部での地方選挙での大敗が予想されています。

(習近平の動静)
 
中国は、習近平政権がよろよろしている感じがします。8月、数週間にわたって姿を消していた時には、失脚論まで出る始末。19日には来訪したベトナムのトー・ラム書記長との会談で「浮上」しましたが。
外交部長は昨年7月秦剛が更迭されたあと、王毅が党中央外事工作委員会弁公室主任職との兼任を続けています。本来は秦剛の後任をきちんと決めるべきものなのです。それに輪をかけて、国防部、人民解放軍の上層部人事は秘密の度合いを強めています。12月29日には、ロケット軍の李玉超前司令官など軍高官ら9人――いずれも装備関係に携わった経歴を持つ――が更迭され、4月には人民軍全体の改組が発表されています。どうも、膨れ上がる一方の国防費、特に兵器関連の予算で構造的な不正が発見されたのではないかと思わせるものがあります。

中国古来の諸王朝は、軍事力をバックに成立することが多いのですが、いずれも権力を取ると軍隊の扱いに窮しています。「国内をまとめておくには必要だが、自分の権力を凌いでもらっては困る」からです。
経済はマクロが絶不調だとされ、それは事実でしょうが、一方フアウェイ(華為)や電気自動車、TikTokなどのネット・ビジネスは世界を席巻する勢い。まるで別の国のできごとのようなのですが、この違いをどう考えればいいのか。どうも実感として把握しかねています。

(米国の余剰資金)

いろいろ言っても、世界で最大の問題は、多分米国での余剰資金がこれからどういう悪さをするかということでしょう。2008年のリーマン・ブラザーズの金融恐慌、そして2020年のコロナ不況を乗り切るために米政府・連銀が市場に流した資金は20兆ドルに上ります(3月22日付日経から計算)。7月12日付日経によれば、米国の簡易投信MMFだけでも残高が6兆1538億ドと過去最高を更新。今でも投資・投機対象を求めて諸方に巡回、滞留。問題を起こしています。7月の日本株暴落も、米国の投機資金が一度に引き上げたために起きたものです。 
今米国は、11月の大統領選挙もにらんで連銀は利下げの構えを明確にし、株式は早くも上昇気配を強めています。この強気が中東情勢の急変、あるいは東アジア情勢の急変で弱気に一変した時、株式・債券から資金が流出して価格が暴落。資産の価値もそれで下がって、金融を目詰まりさせて不況ということにならないか、注目を続けます。

(自民党総裁選挙)

日本の自民党総裁選挙は、面白いことは面白いのですが、それもB級の面白さで、「こんなことで、こんな人材で日本という大きな複雑な国を治めていけると思っているの? ナメてんじゃないの?」という怒りを感じます。怒りと言っても、これは日本の社会全体に起因していることですので、自分で自分に唾をはきかけることになりますが。
そもそも日本の過半数が自民党政治の継続、現状維持を望んでいるのに、そこに選挙という余計な制度が介在するものだから、地方の有力者と自民党の候補者の間で資金のやり取りが起き、それが裏金でまかなわれるわけです。はかない人気とか露出度とか注目度とかで政治を決めることにすると、真面目な政治は行われなくなるでしょう。

総裁選は、派閥のしばりが表向きなくなったことで、米国のプライマリーにも似て、候補者乱立になりました。昔の派閥一つから複数の候補が出る、という状況なので、昔の派閥のボスももうコントロールを利かすことはできません。派閥を維持している麻生、その下でグループを維持している甘利、菅元首相などはそれぞれ思惑――大体が自分の影響力の維持――を秘めて、票を割り振りしたいところでしょうが、候補の数が多すぎて、決定打を打てない。だから第一回投票では、議員票と同数の党友票、と言いますか、110万人以上に及ぶ総裁選の有権者の意向が重要になってくる・・・つまり日本の総理は実質的に公選で選ばれるに近い状況にあるわけです。「首相候補に一票投じたいなら自民党員になって党費を払え」というわけで、文句は言いにくいものがあります。

第1回投票で候補者が2名に絞られ、決選投票(投票できるのは議員のみ。但し第1回投票での党友票も圧縮して算入)というところで、初めて議員票、そして党ボスの操縦力がものを言ってきます。誰がどう動くかは、誰が最後の2名になるかによって変わってきます。

河野氏は、麻生派がどこまで応援してくれるか。麻生氏は河野氏が当選して麻生派の家督を譲らなければならなくなるのは好まないでしょう。麻生派の中で有力な甘利氏も河野氏を仇敵視するのをやめないでしょう。それに甘利氏は小林鷹之議員等を強力にプッシュしています。旧安倍派はどうなるかまだわかりません。小泉進次郎議員は派閥やグループには無所属です。旧岸田派は林氏の下でまとまりが維持できるかどうか。旧茂木派と並んで草刈り場になってしまう可能性があります。

そして総裁選が終われば、次は総選挙が問題になるので、そこで自民党は政権を維持できるのかどうかが問題になるでしょう。ここでは「裏金議員」の去就が話題になっていますが、金権体質の強い選挙区であれば、頭を深々と下げれば許されることでしょう。金権体質はその選挙区全体の責任なのですから。都市部ではウラガネ議員は退かざるを得ないでしょうが、それが立憲民主党の地滑り勝利をもたらすことはないでしょう。「維新」が大阪の箕面市長選挙で敗れたのは大きく、「維新」はその人気の虚しさが露呈され、賞味期限を迎えたと言えるでしょう。「維新」支持層がどこに票を向けるかはまだわかりません。

いずれにしても、経済、安全保障とも、日本はただ大向こうに受ける発言に長けたポピュリズム政治家には退いてもらい、ものごとを進めるに足りる人脈を国の内外に持ち、政治・経済・安保の基本を――細かいことは官僚にやらせればいいので――頭に入れている政治家に出てきてもらいたいものです。石破、林、そしてやや下がって河野ということになるでしょう。

というわけで、今月の目次は次のとおりです。
   
   時代遅れになるか、米国軍
   「日本の脅威」に気づいて海軍を強化しようとするロシア
   日本株暴落・急騰の力学――日本人の外国オンチと外国人の日本軽視
   
  今月の随筆:古代も彩の国だった「埼玉」
   今月の随筆:明治維新で一人逆賊にされたトラウマに、今も沈む会津磐梯地方


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