ユーラシアを理解するために 10 域内を横断する他の主要要因
(11)域内を横断する他の主要要因
前述の如く、国際政治上ユーラシアはいくつかのブロックに分けて考えるのが適当である。それぞれのブロックは、そのブロックの成員すべてに影響を与える共通の要因を持っている。それぞれのブロックにおける共通の要因は異なっているため、ユーラシアはブロックに分けて考察しなければわからないのである。ここでは、中央アジア地域を横断して作用している共通の要因を列挙する。
(a)大国の野心=グレート・ゲーム
第一次大戦前の中央アジアでは、中央アジアを植民地とし、更にインド洋への南下を目論むロシア帝国と、インドを植民地とする大英帝国の勢力がぶつかり、「グレート・ゲーム」と呼ばれる一連の摩擦を起こした。そして現在、当時を髣髴させるような大国の野心の相克が、中央アジアを含む旧ソ連諸国をめぐって生じている。それは1991年のソ連崩壊によって生じた力の真空を埋めようとする自然な動きであり、オスマン・トルコ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国崩壊の後にも見られた現象である。
旧ソ連諸国をめぐっての状況は、およそ3種に分類することができる。第一はエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国で、この三国はもともと西欧の文明・経済の一員であり、既にEU、NATOに加盟し、完全にロシアの勢力圏を離れたかに見える。しかしこの三国にはソ連時代、多数のロシア人が定住し、現在でもエストニアで26%、ラトビアで27%、リトアニアで5%の比重を占めている。彼らは現地語の学習を嫌い、またロシアの大資本、マフィア系資本はこれら三国の経済に深く入り込んでいる。このため、バルト三国はEUにとっては、ロシアのトロイの馬のような意味合いをも持っている。バルト三国が西欧文明に回帰して万歳、ということに簡単にはいかないということである。
・第二のグループはベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァの三国、及びアルメニア、アゼルバイジャン、グルジアのコーカサス三国である。アゼルバイジャンを除いては、地中海・欧州文明の息吹きを浴びてきた国々であり、程度の差はあってもEU、NATOに対して自然な求心力を感じている(但し、ベラルーシ、モルドヴァ、ウクライナの東半分はロシアに文化的・経済的な親和力を感じている)。そのためこの地域では、ロシアとEU・NATOの間で綱引きが起きている。
・前述の如く米国ブッシュ政権はNATOのグルジア、ウクライナへの拡張をもくろんだが、これにロシアが反発、グルジア自身による撥ね上がりもあって2008年8月のグルジア戦争を誘引、グルジアは敗北し、NATO側はこれを放置した。
ウクライナは東半分が向ロシア、西半分が向西欧と世論が分裂しており(西半分はリトアニア公国の一部で、西欧文明に属していた)、NATO加盟は真剣な問題とはなっていない。
・EUとの連合は、これら諸国にとっては強い経済的魅力を持っている。またドイツ等にとっては、特権的市場が東方に拡大していくことは願ってもないことである。このためEUとウクライナ・モルドヴァ・グルジア・アルメニアは、NATO加盟は除外して、当面「EU東方パートナーシップ」という協議体を盛り立て、EUとの連合協約を結ぼうとした。「EU東方パートナーシップ」はポーランドのイニシャティブで、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、グルジア、モルドヴァ、ウクライナをメンバーとして、2008年に発足した、緩い協議体である。そしてそのうちウクライナ、モルドヴァ、グルジアはEU加盟には至らないが、自由貿易協定の要素を備えた「連合協約」を、EUとそれぞれ交渉、2013年11月の「EU東方パートナーシップ」首脳会議で署名の直前にまでこぎつけた。
ところがこれは、ロシアが進める上述の「ユーラシア経済連合」構想ともろにぶつかる。特にロシアにとっては、経済力でロシアに次ぐウクライナをEUの方に「取られた」のでは、ユーラシア経済連合の中身が薄くなってしまう。そこで2013年後半には、ロシアからこれら諸国に対して露骨な圧力がかけられ、9月にはアルメニアのサルクシャン大統領が「ユーラシア経済連合」加盟の意向を表明するに至る。アルメニアはEUと国境を接してもおらず、ロシア駐留軍に安全保障を依存している以上、これも仕方のないことであった。
焦点のウクライナは、EUと連合協約を結ぶのと引き換えにもらうつもりだった経済援助をもらえそうもない状況(EUは、ウクライナが冤罪で投獄中の野党指導者チモシェンコ元副首相を釈放することを要求)が判明すると、15億ドルの援助と天然ガス価格引き下げを約束したロシアの軍門に簡単に下りてしまい、昨年12月以来の首都騒動を招くに至った。しかし1月末には、恐らくロシア、ウクライナ双方諜報機関の使嗾を受けた右翼勢力が運動を簒奪(一部の地方では州庁、市役所を占拠)、国民の警戒心を掻き立てることによって反政府運動を下火にしつつある。
・結局、EUとの連合協約に署名したのはモルドヴァとグルジアの2国だけなのだが、グルジアはEUと国境を接しているわけでもなく、合意の実効性は不明である。モルドヴァも内政上の行きがかりから EUとの連携を選んでいる面が強く、どこまで連合協定の実を挙げられるかは不明である。国内の改革を促進して民営化を進めると、ロシアの資本に買い占められてしまうというジレンマも持っている 。
・第三のグループは中央アジアで、ここではNATO・EUは実力を持った勢力ではない。前述の如く中央アジアでは、ロシアと中国の間の密かな張り合いが目立ち始めている。数年前までの中国は、「中央アジアはロシアの勢力範囲。ロシアが中央アジアの安定を維持し、新疆ウィグルの独立運動に介入しなければそれで十分。但し中央アジアの天然資源は中国も輸入したい」 という立場であったが、トルクメニスタンの天然ガス輸入を開始したあたりから、首脳の中央アジア訪問も頻繁、かつ恒常化し、タジキスタンを皮切りにインフラ建設融資・施工も大々的に展開するに及んで、中国の官僚的体質に起きやすい「止まらなくなる」現象が起きている。他人が手を付けていないものは素早く手を付け、既得権として頑強に擁護し始めるのである。
・そうした中で、ロシアが進めているユーラシア経済連合結成の動きは、中国にしてみれば中央アジア市場を閉鎖されるように見えるのであろう、前述の如く2013年秋に中国政府は「シルクロード経済ベルト」という言葉を喧伝し始めた。それは、未だ具体的な内容を伴っていないが、東欧諸国やウクライナ、バルト三国にまで中国の融資、経済利権が行きわたっていることを示唆し、ユーラシア大陸の市場を閉鎖しないよう、ロシアに警告したものである。中国が、経済力を政治力に転化している具体例として、これは興味深い現象である。日本等は、中ロ対立の隙間をつき、僅かの努力で中央アジア諸国の歓心を買うことが可能となっている。
・以上をまとめると中央アジア地域においては、ロシアが「ユーラシア経済連合」結成で一体性を無理に高めようとする中で、進出度を強めてきた中国との角逐が起きようとしている、と言えよう。但し中ロ両国は、米国に対抗して準同盟関係を維持することに最重点を置いているし、安全保障面では中国は中央アジアに未だ地歩を有していない。米国は、この地域が内陸にあって兵站が困難であるため、2014年アフガニスタン撤退後(米軍顧問団は残るだろう)は中央アジアに大きな軍事プレゼンスを維持する気はないようである。従ってアフガニスタン撤退後は、米国は中央アジアへの関与を減らすものと思われる。その中で中央アジア各国は、大国の角逐の中でバランスを取りながら、最大限の利益を上げようとしている。
(b)イスラム
中央アジアに赴任すると言うと、「あそこはイスラムですね」と変に同情と蔑みの混じった目で見られることが多い。しかし上述したように、イスラムは元々ユダヤ教、キリスト教と神、聖典(旧約聖書)を共有する宗教であり、遊牧民族ではなく都市の商業民を対象に広がったものである。イスラムが成立したのは西暦7世紀と晩く、中央アジア全域に広がったのはそれよりも更に晩い 。15世紀に中央アジア南部で活躍した詩人ナヴォイの詩は百名を越す異なる女性の美と酒のうまさを唄ったもので、イスラムとは相いれない。現在の中央アジア・イスラムの祭日の多くは、キリスト教のクリスマスと同様、現地古来の習俗(或いはゾロアスター教の祭り)を取り入れたものである。上述した如くイスラムは、オリエント地方に古来存在していた宗教、モラル、習俗を取り入れた複合的なもので、狂信的・後進的なものではなかったのである。
・しかも中央アジアに広まったイスラムはスンニ派であり、世俗権力は都市国家を支配する「汗」に委ねていた。そして19世紀半ばにはロシア帝国、1922年以降はソ連の中にいて、イスラムは権力から完全に遠ざけられた。例えばウズベキスタンでは、村落の取りまとめも世俗権力マハリャの取り仕切るところとなっており、都市に至ってはイスラム僧侶は結婚式や葬式で顔を見せる程度である。それでも地方都市ではアザンが定時に街頭のスピーカーで流されるところもある。またタジキスタンでは、都市から外れると、粗末な田舎の小学校で教鞭を取るのがイスラムの老僧侶であったりする。
・中央アジアのイスラムは、政治ファクターとしては未だ弱い。但し、米国・欧州の行動、文化、或いは価値観が社会の安定を脅かすと判断すると、中央アジアの人々は大衆に至るまでが「イスラム」を旗印に抵抗を示す。「年長者を尊敬する、自分達の伝統を守る」という動きの旗印になるのであり、それは宗教と言うよりも社会の習俗・既得権・権威主義の代名詞になっているだけである。またウズベキスタンでは、西側が人権問題等で介入する姿勢を示すと、「この国で下手に権力を替えると、イスラム過激派が政権に着く可能性がある」と述べる政府要人がいたが、これはブラフ(こけ脅し)であろう。キルギスにおいては、マフィア勢力がイスラム教会と癒着する例が報道されている 。これは、原理主義とはまた異なる、イスラムの危険性の別の面を示したもので、麻薬取引がイスラムと結びつくと危険なことになる。
・イスラムが政治ファクターとして問題になるのは、テロとの関係においてである。イスラム過激派は経済的に弱い地域に入り込み、特に青年層をターゲットとする。1999年キルギスでJICA派遣技師達を人質としたのは「イスラム過激派のテロリスト」であり、その後もキルギス南部を中心に「ヒズブ・タフリル」、「ウズベキスタン・イスラム運動」、「イスラム聖戦連盟」等が暗躍を続けている。
最近では、これまでイスラム勢力は弱いと思われていたカザフスタンにおけるイスラム過激派の伸長とテロの増加が目立つ 。アフガニスタン、ロシアの北コーカサスを拠点にしているものと思われる。
またタジキスタンは、貧困な青年達が格好の徴募対象となっており、シリアで戦う者も多い 。そして、イランとの関係を維持する「イスラム復興党」は、政府に警戒されている 。
(c)軍事基地
戦後70年、日本人は軍事的思考を全く忘れてしまったが、軍事は国際政治の主要な要因である。平時には、軍事的要因は主として海外軍事基地の展開と共同演習の相手、規模、時期によって国際政治に影響を与える。
中央アジアにおける外国軍の展開状況は地図の通りであり、これにアフガニスタンのISAF軍が加わっている。ウズベキスタンの米軍は2005年にハナバード空軍基地から撤退させられたが、その後新設の商業空港ナヴォイを使用しているとの報道が多い 。またタジキスタンの首都ドシャンベ近郊にあるアイニ軍用空港は前述の如くインドが改修したために、インド空軍駐留の噂が流れたが、その後の状況は不透明である。3200米の滑走路があるために、中国がアフガニスタンへの足場を狙って目をつけている可能性もある。
・中央アジアにおける米軍のプレゼンスとしては、キルギスのマナス空港が最大で、他にはいくつかの研修施設がタジキスタン等に作られているようである。マナス空港は首都ビシュケクの玄関口で、ここに米軍人が常駐し、アフガニスタンとの人員・カーゴ積み替え業務をしているわけだが 、借用契約は2014年7月に切れる。キルギス政府は「7月で米軍は撤退する 」と言い立てているが、これによってキルギス側は年間6000万ドルと推定される収入を失う。他に航空機燃料販売等の利権は年間1.5億ドルに上り、燃料販売にはロシアの企業も入り込んでいる 。しかしマナス空港の運営はトルコの企業に委託されることになっており、トルコの企業が米軍にマナス使用を認める可能性も報道されている。
・この空港は中国・新疆との国境から至近にあるため、米国にとっては格好の戦略的ロケーションなのであるが、筆者がワシントンで関係者に聞いたところでは、「それは意識しているが、中央アジアは内陸で、ロジの面で孤立しやすいから・・・」という後ろ向きの反応であった。キルギスでは、「だから米国は、新疆のウィグル独立運動への工作も狙ってCIAのプレゼンスを強化しようとしている。ビシュケクに米国が建設中の新大使館に電波諜報施設を備えて200名の人員を外交官として配置する」式の報道 が増えている。
・中央アジアからは外れるが、NATO拡大によって米軍基地、或いはNATO勢力が東漸していることは十分認識しておくべきである。バルト三国上空ではNATO数カ国が持ち回りで領空の哨戒を行っているし 、ルーマニア、旧ユーゴのコソヴォにも米軍基地は設けられている。2014年7月には米軍がキルギスのマナス空港使用を停止することになっているが、その後アフガニスタンとのトランジット機能を果たすのは、ルーマニアのMihail Kogălniceanu空軍基地の予定である。
・他方、ロシアも国外に若干の基地を有している。既述の如くタジキスタンには第201師団がソ連時代から常駐しているし、アルメニアのGyumriにも約5000名のロシア軍が常駐 し、双方について地位協定が結ばれている。ロシアはまたキルギスで魚雷製造工場及び実験設備(イシククリ湖で)、2か所の地震探知所(中国の地下核実験探知のためか?)、海軍用通信所(潜水艦用の模様)を有しており、年間450万ドルをキルギス政府に支払っている 。中央アジアにおいては、基地を置く方が料金を支払うのが常識となっており、地元政府はあらゆる機会をとらえて使用量を吊り上げたり、兵器の無償提供等をロシアに強要する。
・カザフスタンのバイコヌールはロシアの宇宙ロケット打ち上げ基地として有名であるが、液体燃料による環境汚染がひどい等を理由に、カザフスタンはロシアの追い出しを一時はかった。その後2013年2月、ロシア連邦宇宙局の官僚が述べたところでは、「ロシアはバイコヌールの租借を段階的にやめ、将来は共同使用に移行する。ロシアはカザフ要員を研修し、カザフはロシアのプロトン・ロケットの発射を可能なかぎり多数認める」との合意ができた由。これは2050年までの賃貸を決めた2004年協定の変更を意味する 。
・ロシアは更に、タジキスタンのパミール高原にOKNO(窓)と称される高空観測設備を所有している。これは高度4万キロまでの飛行物体を探知することができる 由で、冷戦時代、インド洋の米原潜からソ連向けミサイルが発射された場合、あるいは四川省から中国ミサイルが発射された場合の探知に使われたものであろう。方式は異なるが、ミサイル探知用レーダーはアゼルバイジャンのGabalaにもあり、ソ連崩壊後もロシアはこの賃貸を続けていたが、2012年契約更新時にアゼルバイジャン側が賃料をつり上げて追い出しにかかった。同年中にロシアは撤退したもようである。
・ロシアはこの他、ウクライナのクリミア半島に軍港セヴァストポリを租借している。これは元々ロシアの黒海艦隊の母港であり、現在も不可欠な存在である。他方地元ではロシアの諜報機関FSBが跳梁していることも報道されており、ロシア・ウクライナ間でいつでも問題が表面化し得る存在である。但し2010年4月、ヤヌコヴィチ大統領はメドベジェフ大統領と、セヴァストポリ租借契約を延長する代わりにロシアの天然ガス輸出価格を引き下げる合意に達しており、ロシアにとって懸念は当面消えている。
・またベラルーシのバラノヴィチには1998年、ロシアのレーダー施設が建設されている 。更に2013年4月同国を訪問したショイグ・ロシア国防相は、空軍基地設置をルカシェンコ大統領に打診し、2015年には戦闘機1連隊(普通60機ほど)を展開したいとした由 。実現すれば、バルト三国とポーランド、チェコスロヴァキア、ウクライナ等に対する潜在的脅威となる。
・最近では、ロシア軍が地中海のキプロス(ギリシャ所管部分)の港及び空港を使用する権利を得たことが興味深い。これはシリアの化学兵器を搬出するためという名目であり、米国、ドイツ、中国等の艦船も同様の権利を得ている。ロシア海軍はシリアのTartusに施設を有しているが、小さな埠頭が一つあるだけの由であり、スエズ運河、及び黒海への入り口に近いキプロスにロシア艦隊が地歩を得たことは興味深い。またこの海域は中国からの商船の航行にとっても重要であるため、将来中国艦隊が地中海に常駐する可能性を云々する報道もある。そのようなことはあるまいが、もし実現すれば、欧州諸国も中国軍を身近に感ずることとなり、中国への武器・技術輸出に慎重になるだろう。
・中国は、海外に正式な軍事基地を有していない。しかしアフリカ、中東からのエネルギー資源輸入路にあたるインド洋では、いくつかの島嶼国家への影響力扶植に余念がない。特にセーシェルは、海賊取締にあたる中国艦隊への補給や港湾利用などで協力していく方針を明らかにしている由。同様の協力はすでにイエメンやオマーン、ジブチなどが行っている 。
・中国が高速鉄道・ハイウェー網を全国に張り巡らせていることは、軍事的にも大きな意味を持つ。第1次世界大戦前ドイツ軍のモルトケ参謀長が、全国に張り巡らした鉄道網による軍隊の急速な移動を可能とし、それによって戦力の効率的な活用をはかったことは良く知られているが、同じことが中国の広大な国土で可能になってきた。それは特に、朝鮮半島、ロシア、中央アジア方面に軍隊を集結させる必要が起きた時、威力を発揮することになろう。
・ユーラシア大陸においては歴史上、中国王朝の軍はフェルガナ以西に進んだことはない(モンゴルの元朝を除く)。しかし、中央アジア方面と結ぶ鉄道網を整備し始めていること(以前から新疆-カザフスタンを結ぶ路線はあったが、現在新疆からタジキスタンに入り、途中で分岐してキルギス及びアフガニスタン方面に向かう鉄道建設を予定している)、長距離輸送機 による移動の演習を行っていることなどから、フェルガナ以西の作戦も可能になってきている。アフガニスタンでは大規模銅鉱山の利権も獲得していることから、アフガニスタンに中国軍が立ち入る事態もあり得るだろう。
・中央アジアからは外れるが、中ロ間の軍事バランスはユーラシア東半分の情勢に影響するところ大である。前述の如くロシア極東部の人口は650万人であるのに対して、それに接する中国の東北地方の人口は1億3千万人いる。また東北地方の瀋陽軍区は中国最大の兵力25万人強を有している(但し朝鮮半島をにらんでいる)。そしてロシアの東西を結ぶ物流の大動脈シベリア鉄道は、中国との国境に至近の地点を通っており、戦略的に非常に脆弱である。これらのため、ロシアは「中国と絶対に敵対しない」ことを目下の国是としており、中国も米国、日本等と対峙することに主眼を置いて、ロシアとは準同盟関係を維持している。両国は2001年に中ロ善隣友好協力条約を結んでいる 。
にもかかわらず、両国は万一の場合に備えている。ロシアは中国との間で核兵器のバランスが成り立っていないことを気にしている。中国はロシアを射程に収める中距離核ミサイルを多数所有しているが、ロシアは長距離核ミサイルを中国に対して用いることはできない。発射すれば米国が自国に向けられたものと誤認して、反撃してくるからである。ロシアは中距離核ミサイルを開発する能力はもちろん持っているが、1987年に米ソの間で中距離核ミサイル全廃の条約を結んでしまっているため、動けない 。従ってロシアは、2010年7月の演習で「大軍が押し寄せてきた場合の小型戦術核の使い方」を演習する等 、抑止力誇示に努めている。
・2013年7月中ロ海軍がウラジオストク沖で共同演習を行った後、中国艦隊が宗谷海峡を単独で通過、オホーツク海を経由して本国に帰投した事件があったが、これは興味深い。中国が日本海に出口を確保し(北朝鮮の羅津港から中国領までは30キロほどの距離がある)、軍港を整備すれば、それは日本のみならず、ロシアの沿海地方にとって非常に大きな脅威になるからである。またオホーツク海はロシア原潜の聖域化しているが、そこにベーリング海峡を通過して北極海航路に出る中国艦船を守るために中国軍艦が恒常的に行動するようになる可能性もうかがわせるからである。
(d)共同軍事演習
・日本自衛隊もロシア、インド等と共同演習を行うことはあるし、海上自衛艦は毎年多数の海外親善訪問を行っている。しかしユーラシアの多くの国は、共同軍事演習をもっと大々的に外交目的に使用している。共同軍事演習の相手、場所、目的、頻度を分析することで、その国の外交方向を判断することができるのである。中央アジア周辺でこの数年行われた共同軍事演習をここで網羅しても煩雑になるので、我々の常識に反するようなものだけをここに並べてみたい。
・モンゴルでは、2006年から米国主導で、国連平和維持活動のための多国間合同軍事演習「カーン・クエスト」が毎年行われている。2012年8月の演習では米国から約300名が参加、日本、ロシア、中国、カザフスタン等がオブザーバーを派遣した 。モンゴルは実にインドとも、「北方の象」と称する共同演習を毎年行っている 。規模は数十名と小規模であるが、両国とも中国を牽制する効果を狙っているのであろう。
・しかしそのインドは、実に潜在敵国格の中国とも共同軍事演習をしているのである。2003年には上海沖で海上捜索・救難訓練、2007年に青島付近海上で通信訓練、そして2007年12月には中国雲南省で両国陸軍が初の共同演習を行っている 。
・その一方インドは、ソ連、ロシアと長年にわたり緊密な軍事関係を維持してきた。それは装備において特に顕著であり、空母、潜水艦、戦闘機を初め、インドはロシア製兵器を大量に購入してきた。巡航ミサイル「ブラモス」は、ロシアとの共同開発である 。また2003年以来、中国を牽制する効果を狙ってであろう、ロシアとの共同演習を、「インドラ」と名づけて毎年行っている 。2012年8月ロシアのブリヤートで行われた「Indra-2012」には、両国から約250名ずつが参加している。
・そしてインドは、米国と毎年海軍共同演習「Malabar」を行っている。インド洋をインドと米国の海軍が抑えている限り、中国はインドを「包囲」することはできない。
(e)エネルギー
エネルギー資源と国際政治との関係は、①何がどこにどのくらいあるのか、②誰が開発するのか、③どこにどのくらい輸出し、いくらで売るかの問題に集約できるだろう。①について中央アジアの状況を言うならば、石油はカザフスタンとアゼルバイジャンに多く存在し、ウズベキスタンに中程度、タジキスタンとアフガニスタンにはかなりの可能性がある、ということになる。天然ガスについてはトルクメニスタンが大きな存在、ウズベキスタンは中程度、タジキスタンとアフガニスタンにかなりの可能性、ということである。石炭はモンゴルとカザフスタンに大規模の埋蔵量がある他は、タジキスタンに無煙炭の中規模埋蔵量がある。ウランは中央アジアに広汎、かつ大規模に賦存し、カザフスタンは世界2位の埋蔵量を抱えている。次がウズベキスタンであるが、タジキスタン、キルギスも可能性を持っているだろう。
・どの国が開発しているかであるが、カザフスタンの石油はソ連崩壊後に開発されたこともあり、シェブロン等欧米系メジャーが当初牛耳り、「ウィンブルドン現象」だと揶揄された。しかしカザフスタンの石油は当国政府にとっては利権の源泉で、石油公社「カズムナイガス」社は欧米系メジャーとの合弁における出資率を着々と高めている。
またその途上においては前述の如く、中国石油企業の参入が顕著である。中国はカザフスタン・石油ガス公社(「カズムナイガス」)の株の11%を所有し、カザフスタンの原油輸出の10%強が中国向けになっている 。
・アゼルバイジャンの石油は19世紀末から欧州メジャーが手掛け、第2次世界大戦ではヒットラーがその制覇を狙ってソ連に侵入した代物であるが、ソ連崩壊以後はまた欧米メジャーの関与の度が強くなっている。それは、カスピ海底での開発が増えたためでもある。
・トルクメニスタンの天然ガスは、数年前まではロシアのガスプロムの支配下にあった(輸出の大部分はロシア向けであった)。しかし2009年にトルクメニスタンは対ロ輸出価格引き上げを狙って失敗し、その直前から新規開発に乗り込んでいた中国への依存度を急上昇させた。
・ウズベキスタンの石油、天然ガスは中規模の埋蔵量を抱え、中央アジアの中では最大の対ロ天然ガス輸出国にもなっているが、生産量の大半は内需に回され、開発も自力で行っている部分が大きい。
・モンゴルの石炭は(タバン・タルゴイ炭田)、中国、ロシア、日本、米国、カナダ等の企業が合従連衡しながら、開発利権取得をめざして競争を続けている。これは、中国、ロシア、いずれの側が鉄道を敷設する権利を獲得するかを決するので、大きな政治的意味をも持っている。
・アフガニスタン北部において中国が石油・天然ガス開発の権利を得たことの顛末については前述した。
・カザフスタンのウランは、各国争奪の的となった。日本が珍しく早い段階で利権を獲得したのだが、それを実現したカズアトム公社のジャキーシェフ総裁は冤罪で逮捕・投獄され、現在ではロシアのロスアトムがカザフスタンのウラン利権の多くをカナダ等から略取している。カザフスタンのウランを輸出するには、ロシアに持ち出して1次、2次加工を行わなければならないこともあり、ロスアトムの立場は強いのである。ウズベキスタンのウラン開発には日本、韓国の企業が名乗りを上げているが、これもロシアとの協力なしには実現は難しいであろう。
・上述③の「資源をどこにどのくらい輸出し、いくらで売るか?」という問題は、国際政治の大きな要因となる。カザフスタンの石油は以前、ロシア経由で輸出されていたが、図の「油管2」、つまり「バクー・トビリシ・ジェイハン・石油パイプライン」が2006年完成したことで、カザフスタンはロシアを経由しない輸出経路を獲得した(バクーまではカスピ海上をタンカーで輸送している)。
・ほぼ同時、2009年に中国は図の「油管1」の石油パイプラインを完成し、年間100万トン強 のカザフスタン原油を輸入するに至っている。中国への輸出価格は不明である。
・トルクメニスタンの天然ガスは上述の通り、図の「ガス管2」によって大部分がロシア向けに搬出されていたが(ロシアはトルクメニスタンの天然ガスを安価に買い付け、これをウクライナ等、非西欧諸国に割安価格で輸出する形を取っていた)、中国は前述の如く2008年2月に上海・広東方面へのパイプライン建設を開始、2009年には開通にこぎつけると、年間300億立米の輸入を開始した 。
・アゼルバイジャンはその原油を図の「油管2」と「油管3」(ロシア領を通って黒海沿岸のノヴォロシースクからタンカーで搬出)で輸出している。ロシアとの関係維持にも配慮しているのである。
(f)鉄道・ハイウェー
中央アジアは鉄道・ハイウェー網が比較的未発達であり、世界銀行、アジア開発銀行、西側諸国、中国なども関与して建設が進んでいる。現在の鉄道網の状況はhttp://caravanistan.com/transport/train/に詳しい。
中央アジア地域における鉄道の、国際政治上の意味合いは次のようなものである。
・ソ連時代に建設されたものが大半であるため、中央アジア5カ国の国境に配慮していない。このためキルギス南北を結ぶ鉄道がウズベク領を通過していたり、ウズベクの東西を結ぶ鉄道がタジキスタン領を通過していたり、タジキスタンと外界を結ぶ鉄道はすべてウズベキスタンを経由していたりという現象が存在している。これは国境を通るたびに通関で時間を取られたり、政治的な思惑から通行を妨げられたりといった問題を起こしている。例えば2012年には、ウズベキスタンが「改修」と称して、タジキスタンに向かう鉄道を撤去してしまったことがある。
・中央アジアの鉄道で、南方のペルシア湾につながっているものは、トルクメニスタンに1本あるのみである(但しイランを経由)。中央アジアの綿花、金等の産物を効率的に輸出するためには、インド洋、ペルシャ湾への出口が必要なのであるが、トルクメニスタンの鉄道とハイウェーにのみ依存している状況なので、アフガニスタン経由でイランに出られる鉄道、ハイウェーを整備する必要がある。計画はあるが、実施状況は不透明である。
・これまで中央アジアと中国を結ぶ鉄道は、カザフスタンと新疆国境を通るものしかなかった 。現在タジキスタンと新疆の国境を通る鉄道の建設が進んでおり(実施状況は不明)、これはタジキスタン領内で南北に分かれ、北方面のものはキルギスを南北に貫く初の鉄道となり、南方面のものはタジキスタンをウズベキスタンを経ずにアフガニスタン、トルクメニスタン、イラン、ペルシャ湾につなげるものとなる。
・なお、鉄道は当然軍事的な意味も持っており、中国とつなげることは中国軍の移動を可能にするものでもある。中国の鉄道軌道はいわゆる広軌であるが、中央アジアの鉄道軌道はソ連標準でそれより更に広いので、国境においては車輪を入れ替える必要がある。これは車台を持ち上げ、車輪のねじを外して別の車輪を取り付ける作業で、1時間ほどかかる。その間、移動中の軍隊は脆弱な状況に置かれる。
ハイウェーは、2車線のものであれば、中央アジア諸国ではかなり整備されている。しかし4車線の高速道路はほとんどない。計画は所掲のウィキペディアの地図を参照願いたいが、これはESCAP資料に基づくもので、実際には他にも多数の計画が存在する。ハイウェー建設で重要なのは、中央アジア諸国の南への出口を確保するために不可欠な、アフガニスタンの環状ハイウェーを整備し、安全を確保することである。
(http://en.wikipedia.org/wiki/Asian_Highway_Network)
(g)諜報機関
・旧ソ連地域においては、各国及びロシアの諜報機関が今でも重要なActorである。中央アジア諸国においてはロシアと同様、諜報機関は指導者の権力基盤であり、権力交代時にはキング・メーカーの役割を果たす。2006年トルクメニスタンでニヤゾフ大統領が急死した際には、諜報機関の長レジェポフが後ろ盾となって、ベルディムハメドフへの円滑な権力継承を実現した。但しレジェポフ自身は、2007年には利権がらみの冤罪で逮捕・投獄されている。北朝鮮の張成沢に似た現象であった。ウズベキスタンにおいても、カリモフ大統領の権力継承に当たっては、国家保安庁が最大の役割を果たすであろう。
・旧ソ連諸国の諜報機関はかつてはKGBの一部であったため、現在でも当時の要員を多数擁する。大臣レベルにもKGB出身者は多い。そしてロシアの諜報関係者は、そのために旧ソ連諸国を見くびりがちである。筆者が中央アジアの識者から聴取したところで、ロシアの諜報機関関係者は今でも中央アジアを蔑視し、「いつかは必ずロシアの手に落ちてくる」と公言する由である。しかし、中央アジア諸国政府で勤務するソ連KGB出身者の大多数は、それぞれの国のために働いている。但し、テロ、あるいは米国等第三国の動きについてロシア諜報機関との情報交換は緊密であろう。
・また中央アジア諸国政府は、「ロシアの諜報機関がテロをしかける」ことを常に勘定に入れている。例えば2005年5月、ウズベキスタン東部のアンディジャンで大規模なテロ事件が起きたが、これについてロシア諜報機関は「CIAの仕業」という噂を流した一方で、ロシアがカリモフ大統領を脅すために仕掛けた、との見方も強く存在した 。つまり中央アジア、あるいはユーラシアでテロが起きた時は、地元の不満分子、サウジ・アラビア等の資金援助を得たイスラム・テロ、諸国諜報機関の関与、地元諜報機関による自作自演まで、広い可能性が存在し、背景を見極めるのは容易でないということである。
・中国にとっては、ウィグル独立運動分子が中央アジア諸国、アフガニスタン等に潜んでいることが脅威になっている。筆者は、米国の諜報機関は中央アジアにおいて、かつては新疆ウィグルの独立運動分子を支援していたとの話しを聞いたことがある。また現在でも、『中央アジア・ウィグル聖戦党』分子が「アル・カイダのキャンプ」で訓練を受けているが、資金を出しているのは米国であることを示唆する報道もある 。
・中国の諜報機関は、大使館を中心に多数の要員を配置しているようであるが、活動の実態は不明である。
(h)麻薬
・アフガニスタンは現在、世界最大の麻薬(ケシを原料とするヘロイン)産地となっている。タリバン政権の時代、恐らく旧政権関係者の利権を一掃するためもあって、ケシ栽培は撲滅されたが、アフガニスタン戦争以来、ケシの栽培は急回復した。農民が得ている分は少なく、地元の有力者の懐を潤す面が強いのだが、これが社会の安定を支えるために、欧米諸国はケシ栽培を本気では取り締まっていない。そしてこのことに対して、ロシアは不満を表明してきた。
・アフガニスタン産の麻薬は、タジキスタン、トルクメニスタン、イラン、パキスタンの4経路で搬出されていると言われる。このうち最大のものはタジキスタン経由であり、その量は年間20-25トンと推定されている 。タジキスタン政府要人、あるいはその子弟も麻薬利権、麻薬嗜好に染まっている者が多く、ウバイドラエフ・ドシャンベ市長はその点有名である。タジキスタンのGDPは約65億ドルしかないので、麻薬運搬から上がる利益は大きな意味を持っている。政府はこれを時々「吸い上げる」。例えば2010年、ラフモン大統領はログン・ダム建設のための募金運動を開始して約2億ドルを集めたが、真っ先に募金したのはウバイドラエフ市長である。また2011年には大統領警護局長がクーデター容疑で除去されたが、その際の嫌疑の一つに麻薬利権があった 。
・アフガニスタンの麻薬はタジキスタンを経由してキルギス南部に入る。ここからロシア、欧州方面に出荷されるわけである。キルギス南部の首都オシュの空港からは、ロシアの諸都市、ドバイ、イスタンブール向けの定期便が出ている。キルギス南部の有力者がこの麻薬利権を抑えており、これをめぐる争いが時々表面化する。キルギス南部はウズベク系人が多数を占めており、その中の有力者が2010年6月南部暴動事件の際 、国外に逃亡している。当時は、バキエフ大統領がクーデターで国外に追われた直後であり、彼の長男マクシムはタジキスタンから運動家をオシュに送り込んで、策動に参加した。アフガニスタンの麻薬は、このようにしてタジキスタン、キルギス両国では大きな内政要因になっている。他の3国でも麻薬は内政、外政上の要因になっているはずだが、その度合いは不明である。
・アフガニスタンの麻薬は様々な経路で欧州に達するが、欧州でのハブはコソヴォ、モンテネグロと言われている 。コソヴォと言えば、1998年にセルビアに抗して立ちあがったコソヴォ人に対する欧米諸国の同情は強いが、実際には麻薬ビジネスでその弱い経済を支えている面がある。モンテネグロも同様である。
・なおアフガニスタンの麻薬はタジキスタンを通じて中国にも流れているはずだが(かつてはビルマ、タイ、ラオス国境の「黄金の三角地帯」で生産された麻薬の多くが香港に流れていた)、それについては全く報道がない。中国諜報機関がこの利権に注目しないはずはない。また米国諜報機関、及び将兵による取引もあるだろうが、実態は不明である。
(i)兵器密輸
兵器密輸も、魑魅魍魎がうごめく得体のしれない世界で、麻薬取引と切っても切れない関係がある。麻薬取引で兵器購入の資金を稼ぐ者がいるからである。2011年5月13日付EIR(Executive Intelligence Review)によれば、アフガニスタンで活動していた頃のアルカイダは、麻薬をドバイに搬出し、ソ連製兵器と交換していたが、そこではロシアの軍人くずれの兵器商人Viktor Bout がTrans Aviation Network(TAN)を運営し、アルカイダが倒したアフガニスタンのラッバーニ政権のために麻薬をドバイ経由でアルバニアに空輸 、ベルギーのOstend で兵器を調達してラッバーニ政権に届けていた。これをアルカイダは雇用した由。Boutは2012年、米国の囮捜査にひっかかってタイで拘束され、米国に送還されている。
北朝鮮製兵器の密輸も、時々尻尾を出す。そしてそれには、旧ソ連諸国の者が関わっていることが多い。例えば2009年12月にはバンコックでイラン向けの北朝鮮製兵器を搭載した輸送機IL-76が捕捉されているが、このIL-76はかつてBoutの企業所属であり、乗員5名のうち4名はカザフ人、1名はベラルーシ人であった由 。
(j)テロ
・テロについては、数か所で既に述べたので主要点だけまとめておく。まず、中央アジアのテロにはいくつかの系統がある。東方面ではウズベキスタン解放運動を初め、中央アジア出身者自らが組織したものが主流を占めている一方、西方面ではロシアの北コーカサス方面からspill overした過激派分子が活動を強化しつつある。そして双方とも第三国の支持を得て、アフガニスタン・パキスタンで訓練、シリアで紛争に参加している。
テロ・過激派集団はイスラムを旗印とするものが殆どであるが、貧困・格差に不満を抱く青年層を徴募しては個人的な政治・金銭上の野心を遂げんとするならず者が差配していることが多い。つまりテロは、宗教的な過信を戒めればなくなるものではなく、資金の流れを断ち、中心人物達を捕捉しなければ増殖を防ぐことはできない。そして、これら組織の内情を探ることは至難の業である。探る者自身に、そしてエージェントとなる者に危険が及ぶからである。それは、麻薬関係の情報を収集する場合にも言えることである。
・なお、テロリストと言うよりは独立運動としての、ウィグル人の動きに注目する必要がある。彼らはかつてカザフスタン等でも活動していたが 、今ではミュンヘン、イスタンブールを拠点としている。世界に散らばるウィグル族の団体を糾合した「世界ウィグル会議」が2004年ドイツのミュンヘンに設立されている 。またTurkistan Islamic Partyは主としてトルコ在住のウィグル族が関与して、諸方でテロ活動を組織している。これは米国政府もテロ組織と見なしている。トルコ在住のウィグル族は、トルコ政府が最近中国と共同演習を行ったり、反テロ協定を結んだりしていることに怒りを示している 。なお、キューバのガンタナモ米軍基地に抑留されたままの「アフガン・テロリスト容疑者」の中にはウィグル人がいるが、彼らを釈放する時、何処に送還するかで米中間の問題になる時がある。中国政府は引き渡しを要求するが、米側はパラウ島などに送還している 。
中国政府は、ウィグル族がタリバン或いはIDU(ウズベキスタン・イスラム運動)などと協働することを怖れている。ウィグル人はアフガニスタンやパキスタンのテロ組織の拠点で訓練を受けているからである 。
・なお、インドにある亡命チベット政府については、既述の通りである。
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