Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2022年10月31日

10月という月 メルマガ文明の万華鏡第126号から

メルマガ「文明の万華鏡」第126号を、先週「まぐまぐ」社から発行しました。冒頭に、10月の主な出来事についての感想を述べました。目次と共に、ご笑覧ください。

はじめに

 今月も沢山、重要なことが起こり、既に多くは記憶から消えています。今でも考えているのは、中国共産党大会で起きたこと。閉会の場で、壇上、習近平の隣に座っていた胡錦涛・前党総書記が前方の書類に手を伸ばそうとして隣の栗戦書に止められ、しかたなく習近平の書類を取ろうとして習近平が抱え込み、屈強な係員が後ろから胡錦涛を抱きかかえるようにして退場。壇上居並ぶ幹部の殆どは前方を見たまま、知らんぷり。これは強烈でありました。胡錦涛が配下の共青団系幹部一掃の今回人事を知らされていなかった、あるいは騙されていたのに気が付いて、怒って壇上で何がやろうとしたのを力で抑えられた――こう見えたからです。

 いずれにしても、今回党人事は習近平一味で固め、経済、外交とも保守路線で突っ走ることを内外に宣明したも同然。台湾統一に向けての圧力は高まるでしょう。そして内政、経済では、17世紀フランスのルイ14世下進んだ保守化・硬直化を想起します。彼は1685年、それまで新旧両教徒の共存を定めていたナントの勅令を撤回します。カトリック側が利権と思想の独占をはかってきたわけです。職を失ったユグノー(新教徒)の中には有能な科学者、技術者が多かったのですが、彼らは大挙して国外に脱出しました。当時の宰相ジャン・コルベールは、輸出振興を考えたのはいいが、工場には刑務所ばりの「規律」を敷き、商品の質は規格、生産方法を細かく規定することで確保しようとしたのです。そしてcreative thinkingのできるユグノー系科学者が去ったあとは、保守系科学者は学士院で安逸をむさぼったと言います。

 こういう保守化、そして改革排斥は、分配を求める大衆に保守的エリートがくっついて起きる現象なのですが、結局は保守的エリートが利得を独占、大衆は経済停滞のつけを払わされることで終わるでしょう。フランスの場合は、100年後の大革命で国王が処刑されています。

 今回の党大会で面白かったのは、北朝鮮がミサイルを撃つのをぴたりと止めて、習近平に恭順の意を見せていたことでした。以前は、北京で重要な会議があると、それにわざわざ合わせたかのように北朝鮮がミサイル発射や核実験を行って、習近平のメンツをつぶしていたのですが、今回は北朝鮮の孤立度がひどく、とてもそんなことはできなかったのでしょう。

 英国での政権交代については、昨日発売のNewsweekでも書きましたので繰り返しませんが、旧植民地のインド系を首相に据える英国の柔軟性には驚きます。しかも、帝国主義的気運を強く残す連中も多数いる保守党から。「とにかく経済を何とかしてくれ」という絶望的な気分なのでしょう。

 スナック首相に代わったことで、英国の外交政策にも変化が出てくるでしょう。「経済立て直しに中国の力も使おう」という姿勢が出てくるでしょう。緊縮財政のために、ウクライナ支援を限定しようという姿勢が出てくるでしょう。

 ウクライナでの戦況は、月替わりでロシア優勢、ウクライナ優勢と変わる観がありますが、現在はウクライナ優勢からロシア優勢に潮目が変わる時点にあるのではないかと思います。米国は中間選挙の結果、共和党が議会を制しますと、ウクライナ支援は簡単には議会を通らなくなるでしょう。また英国も上記の状況にあります。

 既にその前から、「西側もウクライナに供与できる兵器が底をついてきた」という指摘がされています。かくてロシアも手詰まり、ウクライナも手詰まりということになる可能性があり、その時は停戦を実現できるかもしれません。ただ、ロシア、ウクライナいずれも、兵員と兵器の補充が成れば、また戦闘を再開することでしょう。

 今回の戦争の根底には、2014年2月のウクライナのヤヌコーヴィチ政権追い落としを、プーチンが西側によるレジーム・チェンジだと思い込み――国内極右勢力の跳ね上がりだと思います――、クリミアとドネツ、ルガンスクの一部を占領したことがすべての根底にあります。ここをロシア軍が占領し続ける限り、ウクライナ側は取り戻す努力を止めないでしょう。そして国際法上の理はウクライナ側にあります。

 というわけで、今月の目次は次のとおりです。


目次
 世界金融危機で何がどうなる? 
 近代民主主義の曲がり角――英国の混乱
 中国は科学技術で西側をしのげるか?
 10月の随筆:長野・松本・塩尻紀行
 10月の随想:「生き甲斐」という言葉は日本語にしかない?

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4214