対中投資のマグニチュード
反日暴動とか日貨不買運動で、日本の企業は対中投資の将来を考え始めた。そしてアメリカでも、議会がファーウェイ(華為技術)とZTE(中興通訊)の通信機器購入は中国公安による諜報を助けるとして警報を発し、9月にはマイクロソフトが、中国製パソコンにマルウェアが仕込まれているのを発見したと公表している。経済を政治に悪用する中国に対する、世界の潮流が変わりかねない。中国国内でも、一部保守派に煽動されて、「毛沢東時代の公平な分配」を求める大衆の願望が前面に出てきつつある。
中国のためには、外国資本の工場はなくてはならないものだ。しかし、かつては直接投資を懇願してきた頃と違って、中国は外国企業に対する優遇措置を廃したばかりでなく、そのうち搾取を強めてくるだろう。既に法人税の多くは、外国企業からのものになっている。従業員がストライキをしたとして、その間の賃金を払わなかったり、解雇したりすると、当局が制裁を課してくるかもしれない。日本の中小企業の場合、中国から撤退しようとしても、種々の未決済「債務」をでっち上げられ、投獄される場合すら出てくるだろう(そのようなケースは既に日本のマスコミに報じられている)。1917年のロシア革命のあと、企業の労働者たちが次々と自分たちの工場を「接収」し、ソ連政府に「献呈」した歴史も、中国人に残る社会主義的メンタリティーにかんがみれば、現代の中国で繰り返されることも十分あり得る。
大変動の時にはとんでもないことが起きる。第2次大戦が終わった時、日本企業・個人が中国に残置した財産は2386億円(Wikipedia)と見積もられているが、これは戦争賠償として中華民国に無償で引き渡されている。これを今日の価格に換算するのは難しいのだが、昭和24年度の一般会計予算が6994億円なので、今日で言えばそれは約30兆円に相当する。2011年の日本の対中直接投資残高は833億ドルなので、これをはるかに下回っている。
そこで万一、中国がグローバル経済のネットワークから脱落した場合のマグニチュードを調べてみた。結論は、それは世界経済にとって致命的なものとはならないだろうということだ。
1.本年5月にジェトロが「米国企業のアジア展開事例とアジア企業の米国展開事例」という資料を発表した。これには、次の面白い数字がのっている(米国商務省統計等をもとにしている)。
(1) 米国の対中直接投資残高は2010年末で604億5200万ドル。2000年に比べて5.4倍(この期間、全海外に対しては3.0倍)に増えているも、全海外に対する直接投資残高の僅か1.5%(日本に対しては2.9%)に過ぎない(但し増加分の中での比重はもっと大きい)。欧州での残高は全体の55.9%(首位のオランダだけで13.3%を占める。持ち株会社設置に優遇措置を与えているからである)、中南米が18.5%、アジア全体で9.0%である。
(2) 米国企業の中国での売上高は2009年で2437億7200万ドルで、全海外の4.3%、純利益は287億4200万ドルで全海外の3.2%である。同年最大の売り上げは欧州におけるもので全海外の50.7%、アジア太平洋(中国を含む)は全海外の24.7%、中南米が11.8%を占める。
全海外での純利益で最大の比重を占めるのは欧州で58.1%、中南米が18.6%、アジア太平洋が13.7%である。
ここからうかがえるのは、米国企業はアジアでは薄利多売になっており、投資効率は欧州の方が上、ただし最近では新規投資先として中国が大いに伸びてきた、ということである。
2.日本の場合はどうか?
ジェトロのホームページに出ている数字から計算すると、2011年末で日本の対外直接投資残高のうち、中国は8.6%を占めているのに対して、米国は28.6%、EUは22.3%、ASEANは11.5%になっている。
3.この表面的な数字だけでものを言うのは危険だし、企業の前線での感覚を知らずに言うのだが、中国への投資は、これがなくなった場合、致命的な打撃を日本、あるいは米国に対して与えるものとは言えないだろう。
4.米国債
中国は米国債を7月時点で約1.2兆ドル保有していた。同月、米国政府発行証券残高は10.6兆ドルであった。対中依存度はかなりのものである。中国が大量に売却を始めると、買い手は見つからず、米国内利子率は上昇圧力を受ける。他方人民幣はドルに対して大幅に切り上がり、中国の対米輸出は壊滅するだろう。
この場合、米国と中国のいずれがショックを早期に吸収し得るだろうか? 米国の方であると考える。FRBが暫時、米国債を購入すればいいだろう。
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